988人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
“恥ずかしかったですね”
と、可愛く照れてみせるか
“ナナミちゃん、何言い出すんでしょうね〜”
と、冗談っぽく言ってみるか。
頭の中を超高速で回転させたけど、無駄な迷いだった。
「永松にそこまでしつこくされてるなんて知らなかった。
ごめんね、気づかなくて。良かったらオレから言おうか?」
田中さんのその言葉で、すーっと冷静になる。
ああ、その話ね……
からかわれた照れ臭さと、何よりもそうちゃんの話のインパクトが強すぎて、そんな事はすっかり忘れていた。
「さすがにそこまでお願いする訳には……それじゃなくても変にウワサされちゃって申し訳ないのに……」
「まあ、永松への言い方はちょっと考えるけど、噂自体はアヤちゃんとなら光栄だよ」
最近の私ならそこで嬉しくなってしまうところだけど、今日に限ってはそういう事をさらっと言えてしまうところに“軽い……”と感じてしまうのは、正反対のそうちゃんがチラついているからなのかな。
「あの痴漢の話が独り歩きしてしまっているみたいで……」
「うん、知ってる」
「そうなんですか?!」
「たまたま小耳に挟んでね。まあ、その手の話はみんな好き勝手にいうからね」
田中さんは余裕そうに笑う。
知らなかったのは私だけだったんだ……
でも例えそれがただの噂でも、私がそれを聞いてしまったら、きっと他人の目を意識し過ぎて仕事の話すらしづらかったと思う。
あれから少し経っているし、そのうちみんなもそんな噂話に飽きるだろう。
知らずにいて良かったのかもしれない。
自宅マンションはもう少し先。
まだまだ話は続く。
最初のコメントを投稿しよう!