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「アヤさ〜ん、おはようございまーす!」
翌日、出勤した私にコンコンと小さくヒールの音を立ててナナミちゃんが近づいてきた。
朝から元気なナナミちゃん。
やっぱり若いな。私なんて昨夜の夜更かしのせいで身体は重いし、お肌のコンディションも悪い。
「おはよう。昨日はありがとね」
「こちらこそ楽しかったです!また行きましょうね!でもいろいろ言っちゃってすみません」
『すみません』という割に全然悪びれる様子もなく、あっけらかんとしている。
「もうふざけ過ぎだよーっ」
一応軽く窘めた。
「何か気分良くなっちゃって。反省してまーす!あの後大丈夫でしたか〜?」
大丈夫って何に対して?
ドキンと大きく心臓が鳴る。
「ナナミちゃんこそ大丈夫だったの?」
困った時は同じ事を聞き返す。
話を逸らす便利な技。
「私は大丈夫ですよ〜。それよりあの後二人でどこかに行ったんですかー?」
困ったな。全然話を逸らせてない。
「帰ったに決まってるでしょ」
呆れたように言ってみるけど、私の胸の鼓動は早くなる一方。
「そっかー。でも田中さん、さりげなくアヤさんのことをエスコートしてましたね。飲んでた時とは全然雰囲気違くて、凄く絵になってました!」
「またそういう事言うんだから……」
ウンザリ風に言ってみるも、“絵になっていた”の言葉に口元が緩みそうになる。
「えへへ、すみません。もう言いません。でも本当にステキでした!あれを見たら田中ファンはショックだろうなぁ」
大人でイケメンでちょっと危険な香りがする田中さんは、ナナミちゃん世代の女性社員から密かな人気。
中には積極的な子もいる。
でも多分田中さんは誰にも手を出していないと……思う。
「その“田中ファン”に恨まれたくないから言いふらさないでね」
「大丈夫です!あの後重谷さんにもお説教されましたから」
重谷くんはそういう意味で言った訳ではないと思うけどね。きっと放っておけという事だと思う。
昨夜は思いがけず重谷くんといろいろ話をすることができた。
この歳になって他人から恋愛で心配されるなんて情けない。
それが本気で心配してくれているのか、ただ単に思っている事を話してくれたのかわからないけど、いずれにせよ昨日の忠告は一応胸に留めておこうと思う。
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