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「佐藤さん」
聞き覚えのある、ねっとりとした嫌な声で引き止められた。
まさか……
恐る恐る振り返ると、そこには永松さんの姿が。
えっ?
ちょっと待って!後をつけて来たの?
嘘でしょ?!
恐怖で背筋が凍りつく。
「どうして……」
次の言葉が続かない。
「今日はひとり?今からご飯食べに行こうよ」
永松さんは嫌味にも聞こえる言い方で、ニヤニヤしながら近づいて来る。
本当にしつこい。
いい加減にして……
それに『今日は』ってどういう事?
でもそれを聞いたらその分話が長くなる。
一秒でも早く逃げたい。
余計なことは言わないでおこう。
「あの……それは何度もお断りしていますよね?行かないです」
「そんなこと言わないでよ。こうして偶然会えたんだし」
偶然?
そんな訳ないでしょ?
後をつけてきたくせに、と言いたいけれど、最近の永松さんは異常だ。
あまり刺激を与えたくない。
「私の失礼な言い方で気分を悪くされたのであれば申し訳ないです。でも何度も言いますけど、食事も含めて永松さんのお誘いには一切お応えできません。こういう事はもうやめて頂けませんか?」
本当は怖くて涙が出そう。
でも怯えていては解決しない。
下手に出つつも隙を与えないよう、少し強めにはっきりとお願いした。
まあ、この程度では響かないのはわかっている。とにかくひたすらお願いしてやめてもらうしかない。
ただ私の事が余程憎いのか、永松さんは私を貶めるような酷いことを言い出した。
「佐藤さん、自分の事モテると思って調子に乗ってるよね。勘違いもいいところだね」
酷い……
こんな風に侮辱されるほど、断るのはいけない事なの?
「えっ?まさか!そんな訳ないじゃないですか!どうしてそんな事……」
私は自分がモテるだなんて一度も思った事はないし、調子に乗っているどころか自信をなくしている。
私がそれ以上何も言い返せないのをいいことに、永松さんは更に酷い言葉を投げてきた。
「そうかな?付き合ってるのは田中だけじゃないでしょ?他の男とも会ってるよね?結局顔なの?そうやって男の品定めしてるんだ?大した女だね」
「で、オレは基準以下だからって見下してるんでしょ?」 ………
他にも下品な下ネタ用語を挟みながら嘲罵する。
ちょっと待って……
永松さん、一体何を言ってるの……?
“助けて……”
尾行された上に侮辱され、恐怖とショックで口元が震えて声が出せない。
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