遠距離の始まり

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「おはようございまーす」 「おはようございます」 「今日からよろしくお願いします」 「こちらこそよろしくね」 配属先は男性ばかりの部署。 低い声の挨拶ばかりが返ってくる。 一度引き継ぎに来ているから、同じ課の人とは顔見知り。 課長はやり手だけれど明るく面倒見の良い、部下から慕われている上司だと、本社勤務の同期達から情報収集済み。 職場の人間関係にあまり不安はなかった。 ただ本社は今までと勝手が違い、何かと戸惑う。 同期も数人いたけれどそうちゃんやしょうちゃんほど親しい訳でもなく、心細いな…と思っていたところに 「アヤちゃん久しぶり!」 と声をかけてくれたのは、あの苦手な田中さん。 一年前に本社に転勤になった田中さんは、隣の課で働いていた。 スノボから始まった一連の騒動やら最後の最後にそうちゃんをキャバクラへ連れて行ったりと、何かと厄介な存在の田中さんだったけど、知っている人の存在に不覚にもちょっと安心してしまった。 「あ、田中さん。お久しぶりです」 「また一緒だね。よろしく! 何か困った事があったら言ってね」 「ありがとうございます」 一応お礼を言ったけど、「田中さんにはお世話になりませんよー」 と心の中で呟いた性格の悪い私。 最初こそ仲の良い女性社員もいなくて、自席でお弁当を食べ、寄り道をするでもなく真っ直ぐ帰宅する毎日だった。 そのうち更衣室でいつも顔を合わせる同僚達と親しくなり、お昼はもちろん、お茶や食事にも行くようになった。 本社内に数人いる同期も歓迎会だ何だと飲みに誘ってくれたりして、私はそんな毎日に気を紛らせていた。 一方、そうちゃんはというと、想像どおりハードな毎日が待っていた。 そんな忙しい中でも毎日欠かさず電話をかけてくれた。 「アヤちゃん、仕事はどう?慣れた?」 「覚えることもやる事もいっぱいあってもう大変!今日も先輩に同行して挨拶回りでさー、凄い勢いで名刺が減ってるよー。 そうちゃんは?今日はどんな研修だったの?」 「今日は○○○と***の研修がメインだったんだけど、いやー意味わかんない。頭がパンクしそうだよ!」 そうは言うけど、そうちゃんは何だかんだと充実してそうだった。 GWまであと少し。 早く会いたいな。 「もうすぐ会えるね」 「楽しみだなー」 カレンダーを見ながら指折り数える毎日。 待ち遠しくて仕方がなかった。
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