遠距離の始まり

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待ちに待ったGW。 そうちゃんの滞在している研修先へ会いに行った。 今までは会社で毎日顔を合わせ、会いたいときにいつでも会えた。 それは贅沢なことなんだと、今更ながら実感する。 せっかくの大型連休。 そうちゃんにたくさん甘え、逆にいっぱい甘えてもらおう。 ウキウキしながら飛行機に乗った。 そうちゃんは空港まで迎えに来てくれて、約1カ月ぶりの再会。 人混みの中に彼を見つけ、早足で駆け寄る。 彼も私に駆け寄り、とびっきりの笑顔で迎えてくれた。 「そうちゃん!」 「久しぶりだね。あれ?背伸びた?」 久しぶりで照れくさいのか、ちっちゃい私に冗談を言っておどける。 「もう、そんな訳ないじゃん!そうちゃんこそ急に髪型変えてどうしたの〜?」 「やっぱ変? 適当に近所の美容院に行ったんだけど、上手く伝わらなくてバッサリ切られちゃってさー」 そうちゃんはちょっと困ったように眉を八の字にしながら苦笑いし、自分の頭を何度も撫でた。 サラサラな髪の毛はいつもより短く切り揃えられ、整髪料で少し立ち気味にセットされている。 襟足も刈り上げられて、さっぱりした印象。 「ううん。短い髪も良いと思うよ!似合う、似合う!」 「本当?じゃあしばらくこの髪型でいこうかな。 アヤちゃんも今日は髪の毛アップにしていい感じだね!口紅の色も違うじゃん。似合うよ」 「ありがと!さすがそうちゃん、よく気づいたねー」 「あったり前じゃん!」 久しぶりの褒め合い合戦。 そうちゃんは相変わらずちょっとした変化にさえ気づいてくれて、こうやって褒めてくれる。 「ところでそれ…まだ荷物あったの?!」 そうちゃんは私の手元をちらっと見ると “ぷっ” と吹き出す。 連休中に必要なものは前もってそうちゃんの元へ送ったはずなのに、私が小さなスーツケースを転がしてきたもんだから “どんだけ持ってくるんだ?” って呆れたのだと思う。 出発直前に “あれも必要かな?” “これも一応持って行こう” と用意したらそこそこの量になってしまい、私もそんな自分に呆れている。 「持ち歩くには邪魔だよなー。とりあえず一旦置きに帰るか……」 彼は私の手からさりげなくそのスーツケースの取っ手を取る。 そこから公共機関を乗り継いで向かったのはそうちゃんの仮住まい。 ちょうど新入社員の研修と重なったこともあって部屋が足りなかったのか、一緒に研修を受けるそうちゃんを含めた在職者と中途採用の社員は近くの借り上げアパートに住むことができた。 「ここだよ」と鍵を開けてもらい、玄関に入る。 先に私がパンプスを脱ぎ、部屋の中へ。 あの家具家電付き…のアパートで、仮住まいだけあって最低限の物しかないこざっぱりとした部屋。 私はその綺麗に保たれた部屋の隅にバッグを置き振り返ると、そうちゃんは私を強く抱きしめた。 「会いたかった……」 やっぱりそうちゃんの腕の中は安心する。 「私も」 私は彼の背中に腕を回した。 抱き合ってキスをして、また抱き合って…… しばらくの間止めることができなかった。 少し落ち着いたところで、そうちゃんは私から身体を離す。 「そろそろどこかへ遊びに行こうか」 彼の誘いに「うん」と言いかけて口をつぐんだ。 私はこのままふたりっきりでいたい。 「ううん。今日はこのままここにいたいな……」 と言うと、 「オレも」 そう言って始まったキスは、また止まらなくなった。
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