遠距離の始まり

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「これ、研修のテキスト?」 部屋に置かれたテーブルの上には、分厚い本や資料が無造作に山積みになっていた。 どの背表紙のタイトルを見ても難しそう。 「うん、そうだよ」 「家でも勉強してるの?」 「あはは。積んであるだけだよ。 一人じゃすることもないからたまーに見ることもあるけどね」 そうちゃんは置かれたテキストに軽く手を乗せ、パラパラ…とめくった。 そうは言うけど、読み込んでいるのはテキストの少しヨレた感じからわかる。 一生懸命勉強している証拠。 「でも資格もいくつか取らなきゃならないんでしょ?勉強しなくていいの?私と遊んでいて大丈夫?」 「思い出させるなよー。大丈夫、何とかなるよ」 「うわぁ余裕じゃん! さっすが〜!そうちゃん、頭良いもんね!凄いなぁ。私には絶対無理だもん」 「プレッシャーかけるね〜。でもまあ思ってた程大変じゃないよ……なーんて余裕かましていてダメだったりして」 褒める私のおでこを軽くツンツンすると、今度は自嘲気味に大きく口を開けてケラケラと笑う彼。 まあ頭も良くてコツコツ努力型のそうちゃんなら、きっと大丈夫だと思うけど… 思っていたより余裕のある様子に安心した。 この様子なら言っても大丈夫かな。 実は今回、そうちゃんに言おうと思っていることがある。それは、 “やっぱりそうちゃんのそばにいたい” ということ。 1カ月離れて暮らしてみたけれど、そうちゃんのいない毎日はやっぱりさみしかった。 そしてユウキとの失敗がトラウマになっていたのか、漠然とした不安がちらつくこともあった。 彼の今後に繋がる大切な時だから邪魔はしたくないけれど、もし少しでも余裕があるならば、たとえひと月に数日だとしても一緒にいたい。 でもそうちゃんのことだから、突然言ってもきっと「そんなことさせられない」と返される。 彼の様子を伺いつつ、話を切り出すタイミングを探ることにした。
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