揺れる想い

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それから少し経ち、久しぶりにユカに会う事になった。 ユカも何かと忙しいらしく、最近はなかなか会う機会がなかった。 今日はランチも兼ねてカフェでお茶。 一本奥へ入った場所にある、最近オープンしたばかりのこのカフェ。 都会の喧騒とは無縁の、静かで落ち着いたオープンテラスは、まさに特等席。 きっとすぐに人気が出るだろうな、と思わせる。 「なかなか時間取れなくてごめんねー」 そんなユカのお詫びの言葉からお喋り開始。 着実にキャリアを重ねているユカは、見た目こそ学生の頃の元気なイメージとは変わってクールでデキる女性になったけど、口を開けば口調もノリも昔のまま。 一気に学生時代に引き戻される。 「全然だよ〜。相変わらず忙しそうだねー」 「何かいろいろと落ち着かなくてねー」 本当は私とユウキに気を遣い、近藤くんと示し合わせていたとは気づかない、なんとも呑気な私。 アクティブなユカは、仕事にプライベートに忙しいのだと信じ切っていた。 「でもせっかくの休みなのによかったの?彼に申し訳ないね」 「いいのいいの、そんなこと」 そうちゃんとの一件を聞いてもらってからというものの、ユカは私の前で彼の話をしなくなった。 きっと気を遣っているのだと思う。 「最近彼とはどんな感じなの?」 せめてものお詫びにと私から話を振ってみるけれど、ユカは表情を変えることもなく「特に何もないよ〜」と多くを語らない。 まああんな話を聞かされたら、話しにくくもなるはず。 話したい事もたくさんあるだろうに、申し訳なく思う。 そんなふたりの会話は、仕事のグチやネイルサロンは何処が良いやらオススメの化粧品は何だとかの美容ネタなど、無難な話が続いていく。 そしてそこからグルメの話へ。 「今度会社の子とご飯に行くんだけど、どこかいいお店ないかなぁ?」 「多分ユカの方が詳しいと思うけど、例えばこの前行って良かったのは中目黒の○○とか……あ、神楽坂の◎◎は行ったことある?あとはちょっとお高めだけど銀座の……」 頭に浮かんでくるのは、田中さんと行ったお店ばかり。 確かに最近は田中さんと食事に行く機会が増えているけど、田中さんの選ぶお店は味はもちろんのこと、盛り付けがオシャレだったり、夜景が綺麗、隠れ家的、少人数で特別感がある…等々雰囲気も良く、間違いなく女子ウケ抜群。 しかも毎回違う雰囲気のお店に連れて行ってくれるから、全てが印象に残ってしまう。 裏を返せば、それだけ女性と食事を共にしているという事なのかもしれない。 「アヤ早過ぎるよ!ちょっと待って!最初から言って!」 ユカの知らないお店ばかりだったらしく、慌ててスマホを取り出すと、一軒ずつ確認し始めた。 「すごーい!知る人ぞ知るって感じの所ばっかりじゃん。参考になる〜。どこでこんなにたくさんのお店知ったの?」 指を忙しく動かしながらスマホを見つつ、「ここ、良いかも」「こっちも美味しそう」と、はしゃいだ声を上げる。 「たまに会社の先輩に連れて行ってもらってるんだ」 「へえ〜……って、ちょっと待って。まさかその先輩って男の人だったりして」 ユカはスマホから顔を上げると、チラリと私を見た。 何気ない顔をしているけど、目の奥がキラリと光っているのは気のせいだろうか。 「うん、まあ……」 急に恥ずかしくなり、ユカの目を真っ直ぐに見る事ができない。 「そうなの?!もしかしてそれは恋の予感?」 ユカの追及が始まった。
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