揺れる想い

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「そういう訳じゃ……」 「でも誘われるんでしょ?しかもこんな良い感じのお店ばっかり!完全にデートじゃん。相手は絶対にその気だよ!」 まさか、あんなに壊れていた私の口からこんなに早く、そうちゃん以外の男性の話が出るなんて思わなかったのかもしれない。 大きく見開いた目と明らかに早口な声から、驚きと興奮が伝わってくる。 「誘われるって言っても、出先から直帰の時に食べて帰ろうとか、仕事帰りに時間が合えばちょっと行こうかって感じだよ」 「それって相手がただ奥手なだけなんじゃないの?予約しなきゃムリそうなところもあるし、絶対計画的だって!」 さっきから一生懸命否定しても、それを打ち消されてしまう。 普通ならそう考えるのが自然なのかもしれない。 でも相手はあの田中さん。 “普通”は通用しない。 「うーん、そういうタイプじゃないんだよね。寧ろ逆。女慣れしてるっていうか遊んでるっていうか。実は昔、いろいろあってね……」 『そうちゃんと張り合って』訳もわからずしつこくされて困った話、 女性を取っ替え引っ替えしていたという噂、 合コン三昧だった事、 仕事はできるし優しいけれど、その優しさから女性の扱いに慣れていると感じている事…… を、思いつくままに話した。 改めて言葉にすると、やっぱり田中さんって危険人物なんじゃないかと思えてくる。 「まあ、そんな人がただ普通に食事するだけなんだから、本当にそんな気はないんだと思うよ」 この後何を言われても良いように、そんな言葉で予防線を張る。 全てを聞き終えたユカも、“うわぁ…”と言わんばかりに苦笑いした。 「ああ、そっち系ねー。アヤはそういう危険なタイプに惹かれる傾向があるもんね。ほら、一時付き合ってた**大学の……誰だっけ?」 「野村くん」 「そうそう、野村くん!あの人もそれに近い感じだったよね。アレはびっくりしたなぁ。まさかアイツと…って、みんな心配してたもんね」 「でもみんなが言うほど遊んでなかったと思うよ」 「だって付き合ってたのは短かったでしょ?さすがにおとなしくしてたんじゃない?大体他校のマネージャーに手を出す男だよ。早めに見切りをつけて正解だったよ」 「うーん…どうなんだろうね……」 例え短い期間だったとしても、縁のあった男性。 当時、嫌な思いをさせられた事もないし、悪く言いたくはない。 言葉を濁してスルーするも、ユカの話は止まらなかった。 「野村くん、相変わらず遊びまくってるらしいよ」 「そうなの?詳しいねー」 「浅田くんが今でも繋がりがあるらしくてね。そんな男をアヤに紹介するなんて本当に戦犯だよ」 私とトモヤを繋いだ浅田くんは、当時みんなから“戦犯だ!”なんて冗談で言われていた。 でも私自身もユウキを忘れたくて軽い気持ちで付き合っていた訳だし、お互い様だと思っている。 私も未熟で、あの時はそこまでの軽薄さは感じていなかったけど、そういう要素のあった男性だというのは、歳を重ねた今ならわかる。 「で、話は戻るけど、肝心のアヤはその人のこと好きなの?」 ユカは急に真顔になり、遂に核心を突いてきた。
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