揺れる想い

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“ アヤはその人のこと好きなの?” その言葉にドキっとさせられ、ユカから目を逸らした。 目の前のコーヒーカップを両手で持ち、それをゆっくりと動かして、意味もなくコーヒーをゆらゆらと揺らしてみる。 私は田中さんの事が好きなのかな…… そのコーヒーを見ながら考える。 当然答えは出ない。 「わからない……」 目を伏せたまま、小さな声で答えた。 「でもはっきり否定できないって事は、少なくとも気にはなってるんだ?」 ユカも先程とは違い、優しく落ち着いた声で語りかけてくる。 「そうなるのかな……でもそういう人だから、本気にならないようにとは思ってる」 「そっかー。少しでもそうちゃん(元カレ)から他の男性に目を向けられるようになったのは良い事だよ。安心した」 “安心した” ———— その一言に、如何に今まで心配をかけていたのかと反省させられる。 そしてそれにはっとして顔を上げると、ユカはほっとしたように少し微笑んだ。 「ごめんね、ずっと心配ばかりかけて。でも良い事なのかな…… そうちゃん(カレ)のこと、まだ何も解決してないのに……」 「良い事だよ!あんな事があったのによくここまで頑張ってきたと思うよ。これからは自分が幸せになる事だけ考えればいいんだって」 ユカのそんな言葉に癒され、押さえていた感情が解放されたのか涙が込み上げてきて、ハンカチでそっと拭った。 “ 自分が幸せになる事だけ考えればいい” 本当はそうちゃんと歩んで行きたい。 でもそれが叶わなくなった今、私の幸せは一体何処にあるのだろう。 私の幸せを叶えてくれるのは田中さんなのかな……いや、そんな事は考えたくない。 「でもね、なんとなく罪悪感があるし、まだちょっと怖いかな……」 「アヤは何も悪くない。そうちゃん(元カレ)の事はもう忘れていいんだよ。 男性不信になるのは仕方がないけど、“いいな” “気になるな”って思う気持ちに正直になってみてもいいんじゃないかな?」 「でも相手がどう思っているのかわからないでしょ?おまけにそんな人だし」 「まぁちょっと危険な香りはするけどね。でもさ、そんな人だからこそ何もしてこないなんて、意外と本気のような気がするけどなぁ」 「ううん、違うと思う」 ユカの言葉に被せる勢いで否定する。 残念ながら、そこだけはきっぱり言い切れてしまう。 「アヤはどうしても認めたくないみたいだね」 ユカは眉を八の字にして苦笑いした。 「認めるとか認めないとかじゃなくて、本当にそんな雰囲気醸し出してないから!私のことなんて何とも思ってないって! それにさ、何度も言うけどそんな人だよ?この歳になって遊ばれて、飽きたらポイ捨てなんてされたりしたらもう立ち直れないよ!」 なんだか心を見透かされたような気がして、ますます意固地になる。 そんな私のひと言に、しんみりしていた空気がガラっと変わった。 そして、話は思わぬ方向へ向かう。 「何もそんなにムキにならなくても…… 私は別にその人をオススメしてる訳じゃないよ。でも話を聞く限り、あとはアヤの気持ち次第なのかなって思っただけで。 ただ中島くんはどうするの?」 ユカは私の顔を覗き込むように、首を傾げた。 口調こそ優しいけれど、私を見る眼差しは少し鋭くなったように感じる。 ユウキ…… 確かにユウキはとても大切な人であり、大切な存在。 ただ、今の私の中にユウキに対する恋愛感情はない。 「ユウキとはもう友達だし、別に何も…」 何となく痛いところを突かれた気がする。 気まずく感じ、また目を伏せた。 「“別に”って……なんか冷たい言い方だね。よく会ってるんでしょ?」 「そうだけど、空いてる日が合えば飲みに行ってるだけだし、お互いにそんな深い意味なんてないよ」 さっきからの気まずい空気をごまかすように、カップの中を残り少ないコーヒーを一気に飲み干した。 「アヤ、いくら何でもそれは酷いよ。中島くんの気持ち、考えたことある?」 ユカの口調が突然キツくなり、驚いて顔を上げると、ユカは眉根を寄せた厳しい表情で私を見ていた。
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