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「気持ちって言われても……」
「またそれ?わかってるくせにそうやってとぼけて。学生の頃と全然変わらないじゃん。中島くんがどんな気持ちでアヤと接してるのかわかってるでしょ?」
ユカの厳しくもあり呆れたようでもある口ぶりから、イライラがひしひしと伝わってくる。
それに反応し、思わず強く言い返してしまいそうになるけれど、ここはぐっと堪える。
「ユカはユウキが私を好きだって言いたいんでしょ?でもそれは違うと思う。ユウキが心配してくれてるのはわかってるよ。でもあの頃とは違う。ユウキはああいう性格だから私を友達として放っておけないだけ」
学生時代のまだ片思いの頃、ちょっとした言動から、もしかしたらユウキも私を好きでいてくれていると心のどこかで期待していた。
ユウキも同じように感じていたと、付き合い始めてから聞いた事がある。
今はふたりの間にそういう雰囲気は皆無。
気心が知れているからこそ言いたい事を言い合えるし、変に飾らなくてもいいし、気の置けない親友といった感じ。
確かに要所要所で優しいけれど、それも友達の域を超えてはいない。
「本当にわかってないね。アヤは中島くんの優しさに甘え過ぎ!もうちょっと考えてあげなよ」
「ユカは私とユウキがよりを戻すべきだって思うの?」
「もちろんそうなったらいいなとは思ってるよ。でもそれはふたりが決める事だから。
ただね、アヤがあんまりな言い方をするから、中島くんがかわいそうになっちゃって……」
ユカは眉間にシワを寄せて視線を落とし、深くため息をついた。
その表情とため息が、私をジワジワと責める。
確かにさっきの言い方は冷たかったかもしれない。
でもこんな言い方は傲慢だけど、ユウキにその気があれば、いくらでもアピールするチャンスはあったし、私だってそれを感じたら、結論はどうであれちゃんと考えた。
もっと言えば、先に私に恋愛感情が芽生えれば、それなりにアプローチしたと思う。
それにユウキが応えるかどうかはわからないけど……
でも現実にそんな雰囲気はない。
ユウキの気持ちをぞんざいに扱ってしまっているのかな。
やっぱり優しさに甘えてしまっているのかな。
しばらくの間、黙り込んでしまった。
ユカも何も言わず、私の言葉を待っている。
いつの間にか辺りには心地良いそよ風が吹いていて、その少しひんやりとする空気が私を冷静にさせた。
きっと出会ったばかりで今のような関係であれば、私は間違いなくユウキを好きになるはず。
でも……
「またユウキと付き合うのは無理だと思う」
これが私の本心。
「どうして?」
ユカは責める風でもなく、ただ静かに問いかけてきた。
「ユカにはちゃんと話してなかったけど、別れる前はすれ違ってばっかりで本当に悩んだし、別れた後はいっぱい泣いたよ。何で上手くいかなくなっちゃったのかなってずーっと考えてた。
エリカの結婚式の日、実はユウキとよく話したんだけどね。その時いろんな事がわかったけど、話した後は未練どころかスッキリしちゃったし、そもそも5年も付き合っていてあれを乗り越えられなかったのは、結局それだけの関係だったんだよ。それを今更……」
私はその“本心” を話し始めた。
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