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「今更、どうやってやり直すっていうの?
それに、“そうちゃんと上手くいかなくなりました。じゃあユウキの元に戻ります” だなんて、虫が良すぎるでしょ」
「まああの日、わざとふたりを置き去りにしたんだけどね」
「そうなの?!」
なるほど。
あのメイクを簡単に直しただけの短時間で置いて行かれるなんて、どおりでおかしいと思った。
「ごめんね、勝手な事をして。でもふたりでよく話して欲しかったから」
「ううん……あの日ちゃんと話せて本当に良かったって思ってるよ。ありがとね」
ユウキとあの日の事に触れたことはない。
あの会話をユウキはどのように捉え、何を感じ、今どう思っているのかわからない。
ただ少なくとも、あの時きちんと話ができたおかげで、今のユウキとの関係が成立していると私は思っている。
「中島くんは別れた後に何も話さなかったし私達も敢えて触れなかったけど、一回だけ酔っ払ってた時にね、ポロっと“何で別れちゃったんだろう” 、“でもオレが悪かったんだ” って私に言ったの。
確かにかなり酔ってたけど、だからって私にそんなこと言うなんてびっくりだよね。よっぽど後悔してるんだなって思ったの。
“アヤにもう一度会いに行ってみたら?”って言ったんだけど、返事はなくて……」
ユウキは昔、私と付き合う前に散々言われたから、ユカには私の話を絶対しないと、冗談めかしていた。
そのユウキがユカに私の事を、しかもそんな弱みを見せるような事を言うなんて驚く。
「アヤだって無理してたでしょ?アヤは辛い時ほど無理に明るくするもんね。別れたって聞いた時、電話越しでも空元気なのがわかったよ」
図星なだけに、恥ずかしさからどう反応したらいいのか悩む。
あの時、同情されるのも辛いし気を遣わせたくもなくて、敢えて明るく報告した。
さすが私の事を良くわかってくれている。
そんな私の気持ちを汲み取って、何も聞かずにそっとしておいてくれたことをありがたいと思う。
「新しい彼ができたって聞いて、もう必要はないかもとは思ったんだけど……でも、二次会でアヤが無駄にはしゃいでる気がして、もしまだ何かわだかまりが残ってるならふたりで話すべきだと思ったし、中島くんのためにもなるかなって」
あの時の事は良く覚えている。
ユウキと同じ空間にいるのはやっぱり気まずくて、目が合うたびに胸がチクっと痛んで苦しくて、そんな自分に戸惑って……
そうちゃんに夢中なはずなのに、どうしてそんな風に感じてしまうのかと困惑した。
そして、そんな胸の内を誰にも気づかれたくなくて、終始 “はしゃいで” いた。
「そうだね……わだかまりはあったかな。
ちゃんと話し合うこともないまま別れちゃったから……」
そして、
別れる前はすれ違ってばかりだったこと
ユウキが変わってしまって、ついていけなくなったこと
もう無理だと思って別れてしまったけど、そうちゃんと付き合うまでは、ずっと後悔していたこと
そして何より、
転勤前に結婚を匂わせておいて、突然その話を避け出したことで、焦りとイライラだけではなく、その理由がわからず自信をなくしてしまっていたこと
それが別れた後も、ずっと尾を引いていたこと
そんな諸々のことを、初めてユカに明かした。
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