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「あの日、お互いの想いとか聞きたかった事を話して、誤解してた事もたくさんわかって。
本当は別れる前にそういう話をするべきだったんだよね。
でも、付き合いが長くなって、何かをしてもらって当たり前だとか、わかってくれてるはずだなんて、ふたりとも自分勝手になってた。
手遅れだったけど、それでもじっくり話せて良かったって思ってる」
ひととおり話し終えると、それまで相槌を打つだけだったユカがすぐに口を開いた。
「じゃあ、何でもう付き合う事はできないなんて思うの?嫌いになった訳じゃないでしょ?」
納得いかないといった様子で眉を寄せ、首を傾げて私を見る。
「もちろん嫌いになんてならなかったよ。
でももし今、ユウキが私をそういう風に思ってくれたとしても、もう一度ユウキを好きになるのは怖い。やり直してもまたダメになるような気がする。もう辛い思いはしたくないよ。だからこのままの関係でいたいの」
もちろん、ユウキに大切な女性ができたら、この関係は終わりにするつもり。
それまでは今のように友達として付き合っていきたい。
友達なら何も望まないし、期待もしない。
でも気心が知れているから何でも話せるし、気取ったり飾ったりせずにいられる。
もしもう一度特別な関係になったら、私は沢山のことをユウキに求めてしまうし、きっとユウキだって同じだと思う。
もちろんあの時のことからお互いに学んだことも多いはずだし、その反省からふたりとも努力するとは思う。
でも長い年月をかけてあれほどの信頼関係を築いていても、結局はほんの数ヶ月で壊れてしまった。
人はそう簡単には変われない。
きっとちょっとしたきっかけで、また同じことの繰り返しになるんじゃないかという不安は拭えない。
ユウキと終わったあの頃は本当に苦しくて必死にもがいて。でもふと顔を上げたら、そうちゃんが手を差し伸べてくれていた。
そのそうちゃんとも上手くいかなくなってユウキの時以上に苦しんで、これでユウキとまたダメになったら、本当に立ち直れない。
私の言葉を聞き、暫くの間俯いて考えていたユカがすっと顔を上げた。
そして、私の目をじっと見ながら静かに口を開いた。
「もちろんアヤが誰を選ぶのかは自由だよ。アヤが幸せになるならどちらでも応援する。ただね、その会社の人を選ぶなら、もう中島くんとは会うべきじゃないと思う。中途半端な態度は中島くんにもその人にも失礼だよ」
その私だけではなく、ユウキや田中さんの事まで思いやる言葉と硬く真面目な表情は、優柔不断な私の心に深く突き刺さる。
「うん……」
私は頷くだけで、それ以上、何も言えなかった。
本当はユカに言われなくてもわかっていたんだと思う。
でも、ユウキが私を好きだなんて考えたくなかった。
また辛い思いをするくらいなら……と、ユウキと向き合うことから逃げた。
それから田中さんへの想いを恋愛感情だと認めるのが怖かった。
そして何より、そうちゃんへの消えない愛情からも目を逸らしたままだった。
全ては傷つくのが怖いから。
私は本当に中途半端な女だと思う。
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