恋の入り口?

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恋の入り口?

その電車での一件の少し前、残業を終えて乗り込んだエレベーター内でのこと。 「あの……」 突然、乗り合わせた男性社員から話しかけられた。 「○○課の佐藤さんですよね?」 「えっ?あ、はい。そうですけど……」 えっと……誰だろう。 どこかで一緒だったかな? 名前を確認しようにも、帰宅時だからか首からIDカードを下げておらずわからない。 困ったな…… 対応に悩む私にその人は名前を告げた。 「△△課の永松と言います。あの時はありがとうございました」 「あっ、お疲れさまです。えーっと……」 △△課? こんな人いたっけ? △△課とはフロアーも違うし、仕事の接点もないからよくわからない。 やっぱり知らない人だ。 でも“あの時”っていつ? 私、何かした? 心当たりのない話に困ってしまう。 そんな私の困惑にお構いなく、永松さんはどんどん話しかけてくる。 「僕、田中の同期なんだ」 「“田中さん”ですか?」 田中さんって社内に知ってる人が何人かいるけど、誰かな…… この人と同じくらいの年齢なら、あの田中さんと他の支店にいるもう一人の田中さん。 どちらだろう。 ちょっと考える。 「佐藤さん、よく田中と一緒にいるよね?付き合ってるの?」 “一緒に”ということは、あの田中さん。 でも突然そんな事を言うなんて、何か変な人だな。 大変失礼だけど、見た目のむさ苦しさも相まって、何となく生理的に受け入れられない。 心のシャッターが降り始めた。 「**課の田中さんですか?今同じ仕事扱ってるんで……でも付き合ってないですけど?」 拒否反応から、ついつい言葉尻がキツくなる。 「そう。それならいいんだけど。 でも田中って遊びまくってるよ。知ってる? やめておきなよ」 私の冷たい対応にも怯まず、ズケズケ話しかけてくるこの人。 だいたい何で知らない人にそんな事言われなきゃならないんだろう。 本当に失礼な人! しかも田中さんの事をそんな風に言うなんて。 正直、私だって少し前までそう思ってたけど、今の田中さんはそんな事はない!はず…… よせばいいのに反論してしまう。 「あの、私と田中さん、本当にそんな関係じゃないですから。それに田中さんってそんな人じゃないですよ」 悪く言われてカチンときた。 思わず田中さんを庇ってしまう。 「佐藤さん、全然わかってないなー。 アイツ、同期の女の子だけでも何人も泣かせてるよ」 「そうですか。でもご忠告頂かなくても本当に何もないんで大丈夫です。それじゃ、失礼します。お疲れさまでした」 変な人に関わっちゃったな。 本当に気分が悪い。 足早にその場を離れ、駅へ向かった。 …………………………………… 自宅方面の電車に乗り込み、ぼーっと外を眺める。 “同期の女の子だけでも何人も泣かせてるよ” さっき聞いたばかりの永松さんの言葉が、頭の中でリフレインする。 悲しいかな。 強ち間違ってないんじゃないかと思わされる。 もちろん最近は落ち着いていると思う。 でも昔は? いつかまた戻ってしまう? 考えただけで心がぎゅーと締め付けられ、苦しくなった。 元々白黒はっきりさせたい私の性格。 事実を確かめたくなった。
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