恋の入り口?

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もちろんそれが事実であっても『そのとおりだよ』なんて言わないと思う。 ただ例え嘘だとしても、『誤解だよ』の一言が欲しいだけなのかもしれない。 何となく聞けずにいたけれど、その直後にあの電車の一件があり、いよいよ確かめようと行動に移した。 午後イチのアポに向かうため、田中さんと一緒に少し早めに会社を出て、昼食を取ろうと和食店へ入った時のことだった。 ユカの忠告以来、なるべくふたりっきりにならないようにしてきたけれど、一緒に昼食をとなれば仕方がない。 注文を終え、お茶を飲みながら雑談をしている今がチャンスだと思った私は、 「そういえば、△△課の永松さんって同期なんですか?」 と、さも突然思い出したかのように切り出した。 「永松?ああ、同期だよ。ほとんど話したこともないけど。永松がどうかした?」 「この前話しかけられたんですけど、変な事言われちゃって。どんな人なのかなって」 「どんな人……うーん、一言で言えば変わった奴だよ。何か嫌な事言われたの?」 嫌な事……そのとおり。 でもいざとなったらやっぱり聞きにくい。 そして、どんな答えが返ってくるのかと考えると、ますます躊躇してしまう。 「いえ、何にも言われてないですよ」 せっかく思い切って話を振ったのに、結局怖気づいてしまった。 気負わずに聞けばいいのに、意識し過ぎな私。 そんな私を見た田中さんは、 「アヤちゃん、今、変な事言われたって言ったでしょ?何言われたの?気になるよ」 心配そうに私の顔を覗き込んだ。 聞いてもいいのかな? でもこんなに気にしているとは悟られたくない。 「嫌な事っていうか、田中さんが同期の女の子を何人も泣かせたから気をつけるようにって言われちゃいました!もう田中さん、ダメじゃないですか〜」 敢えて軽いノリで聞いてみた。 笑い飛ばしてくれると思いきや、一瞬で田中さんの顔色が変わり、 「何だよアイツ、意味わかんないな」 と、吐き捨てるように呟き、眉をひそめた。 田中さんがこんな風に苛立ちを見せるなんて珍しい。 さすがの田中さんでも失礼な質問だった。 やっぱり怒らせちゃったかな。 どうしよう…… 「すみません、変な事言って。そんな話、全然信用してないんで大丈夫ですよ!」 軽々しく聞いてしまった事を激しく後悔し、慌てて言い訳をした。 田中さんも我に返ったようにはっと表情を変え、焦ったように身を乗り出した。 「ごめん、アヤちゃんにじゃなくてアイツにイラっとしただけだから! 信じて欲しいんだけど、本当に同期の女性とそういう関係になったことはないよ。そこはオレのポリシーだから」 「よくわからないポリシーですね」 苛立ちが永松さんに向けたものだとわかった安堵と、その意味のわからないポリシーとやらに、思わずクスっと笑ってしまう。 「あはは……だって同期だと上手くいかなかったら後々めんどくさいでしょ?」 そこまで言って、きっと私とそうちゃんが同期だと気づいたのだろう。 “しまった!”といった顔をして、オロオロし始めた。 「あ、ごめん。別に深い意味はないんだけど、いや、あくまでもオレがって事だから……」 早口で一生懸命言い訳する田中さん。 私も思わぬタイミングでそうちゃんの顔が浮かび、胸がチクンと痛むも、 「そんなに気にしないでください!確かに上手くいかなくなったらめんどくさいですから〜」 気を遣わせまいと、冗談っぽくケラケラと笑ってごまかした。 ただ、苛立つ様子やこんなに焦る田中さんを見るのは初めて。 何だか新鮮だな……なんて気持ちがあるのも確か。 そんな気持ちとそうちゃんが同時に頭の中に存在するのはやっぱり抵抗がある。 頭に浮かんだままのそうちゃんを消したくて、ゆっくりお茶を飲んで小さくふーっと息を吐いた。 そしてそのまま会話が途切れた。 何だか気まずいな……と思っていると、 「ちょっと真面目な話をしてもいい?」 落ち着いた声が聞こえ、驚いて顔を上げると、私をじっと見つめる田中さんの顔があった。
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