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「でもウワサになってますよ。
警察沙汰になって、田中さんとの関係もバレちゃったって」
警察沙汰?
ああ、あの話か……と、ようやく話が見えてきた。
「それってストーカーじゃなくて痴漢だよ。しかもデートじゃなくて仕事中!」
「あれ?そうなんですか?しつこく付き纏われたって聞いたんですけどね」
確かに執拗に酷い事をされた。
でもその話が周りめぐって、この子の中ではストーカーに転換されている。
噂って怖い。
「実はこの前……」
電車内で痴漢に遭い、その場に居合わせた田中さんに助けてもらった事を簡単に説明した。
「でも田中さん、最近全然合コンに来なくなったって重谷さんが言ってたし、アヤさんだって突然ピタっとやめたじゃないですか。そのタイミングが一緒なんですよねー。もうバレバレですよ〜」
「そんなの偶然だよー。私ももう合コンって歳でもないじゃん?だから行くのをやめただけだし……」
私はさっきから何をこんなにムキになって一生懸命否定しているんだろう。
自分でも言い訳しているようにしか思えない。
「ふふふ……そういう事にしておきますね」
「も〜私の話信用してないでしょ?
そんな事より永松さん、何とかならないかな?」
さりげなく話を変えてみようとしたけど、ナナミちゃんはそうはさせてくれない。
「田中さんにバシっと言ってもらえばいいじゃないですか〜。やっぱり彼氏の登場が一番効きそうだし!」
「だから田中さんとは何もないんだって!」
「そうなんですか?大人のカップルって感じでお似合いなのになー」
ナナミちゃんは残念と言いたげに口を尖らせた。
こういう話をこんなにも無責任に楽しめるのは、若いからなんだろうな。
私なんてもう社内恋愛の話にはそれほど興味も湧かない。
でも“お似合い”だって。
そんな風に言われるとちょっと嬉しくなり、口元が緩みそうになった。
「アヤさん、この後空いてますか?久しぶりに食事に行きましょうよ!」
そんなナナミちゃんの誘いを快諾し、ロッカールームを出てエレベーターを待っていると、
「今帰り?」
背後から声をかけられた。
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