episodeー鼓動

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 意を決した結弦が七緒に歩み寄る。緊張した表情をする結弦と笑顔で応じている七緒。二人の邪魔にならない様に、視界から遠ざかり作業を続ける。  七緒が俺に寄せる恋心は、けして愛じゃない。沙羅を見てきたからわかる。  憧れか、淡い初恋のようなもの。身を焦がす想いはそこには無い。  今度こそお前が幸せを掴め、結弦。 「作業は終了です。確認のサインを」 業者へとサインを済ませる。机もソファも全てが運び出され、オフィス内はすっかり色を変える。 「結弦、お疲れ様」 「何も無いと余計に広く感じるよ」  そうだな、結弦に頷き部屋を見渡す。窓の外の景色を此処から眺めるのも最後だろう。 「兄貴? 何処を見てるの?」 人混みにまぎれていてもわかる。あれは彩華の姿だ。 「雨の中、何をやってるんだ」 「え、兄貴?」 クリッとした瞳が驚いて俺を見る。
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