episodeー鼓動

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「結弦、これを。後は頼む」 オフィスの合い鍵を手渡す。結弦を背にして数歩駆け出してから足を止める。 「七緒さんを送ってあげて」 結弦の背中は押した。あとは自力でがんばれよ。 「あ、亜城さん、どちらへ?」 入口の扉を掃除している七緒に声をかけられる。 「外は酷い雨です」 「だから行くんだよ」 えっ、と目を丸くする。七緒は愛らしい表情を見せる。君ならきっと、背伸びをしなくても素敵な恋ができるはずだ。  エレベーターに乗り込もうとする俺の後を慌てて七緒が付いて来る。 「亜城さん、あの、この前のお返事は」 「何も聞いてないよ」 七緒に微笑みかける。戸惑う君の前を扉は閉まる。  風が強く吹く。横殴りの雨に傘は役に立ちそうにない。諦めて傘を持たずにビルの外へと駆け出す。
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