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街路樹が風に揺らされている。吹き付ける雨は冷たく頰を濡らす。樹の下に立つ彩華の元に走り寄る。
「伊織…… どうして」
「いつから此処にいたんだ」
右手を上げてスーツの上着を広げる。彩華の顔を隠す様に覆う。
「オフィスに行こう」
髪も服もずぶ濡れだ。メイクは流れ落ち、寒いのか唇が小刻みに震えている。
「嫌よ、あの方もいらっしゃるのでしょう?」
彩華の言葉で思い出す。そういえば、七緒を婚約者だと偽っていた。
「いいから、とにかくおいで」
「嫌、お会いしたくないわ」
肩に手をまわして胸に引き寄せる。上着を広げたまま彩華を連れて雨の中を進む。
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