episodeー激情

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 彩華はたとえるなら咲き誇る大輪の薔薇。高嶺の花だと憧れたあの頃よりも、魅惑的な女性になった。 「私ね、伊織」 細い腕が俺の顔に伸びる。指先が優しく頬を包む。 「貴方がずっと、好きだったのよ」 「そんな素振りさえ無かっただろう」 頬を包む彩華の手に、自分の手の平を重ねる。 「言えないわ。私には婚約者がいたもの」 「彩華の気持ちは嬉しいよ。だけど……」 ごめんな―― 頬にふれた彩華の手を掴み、そっと顔から離す。 「どうしても私じゃだめなの?」 頼むから泣かないで。彩華が駄目なんじゃない、俺の中に忘れ得ぬ存在がある。それだけだから。 「彩華……!」 膝を立てて腕を伸ばす。首にしがみついてきつく俺を抱きしめる。  彩華の頭を撫でて浅く息を吐く。まさか彩華が俺を想い涙を見せるなんて。予想外な状況に胸がざわめき続ける。
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