207人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
彩華はたとえるなら咲き誇る大輪の薔薇。高嶺の花だと憧れたあの頃よりも、魅惑的な女性になった。
「私ね、伊織」
細い腕が俺の顔に伸びる。指先が優しく頬を包む。
「貴方がずっと、好きだったのよ」
「そんな素振りさえ無かっただろう」
頬を包む彩華の手に、自分の手の平を重ねる。
「言えないわ。私には婚約者がいたもの」
「彩華の気持ちは嬉しいよ。だけど……」
ごめんな―― 頬にふれた彩華の手を掴み、そっと顔から離す。
「どうしても私じゃだめなの?」
頼むから泣かないで。彩華が駄目なんじゃない、俺の中に忘れ得ぬ存在がある。それだけだから。
「彩華……!」
膝を立てて腕を伸ばす。首にしがみついてきつく俺を抱きしめる。
彩華の頭を撫でて浅く息を吐く。まさか彩華が俺を想い涙を見せるなんて。予想外な状況に胸がざわめき続ける。
最初のコメントを投稿しよう!