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何処へ――!? 胸元から携帯電話を取り出す。彩華にコールを入れると、すぐに通話が繋がる。
「彩華、今何処にいるの」
『……自宅なの』
事故では無い様子に胸を撫で下ろす。
「心配したよ、急に帰るから」
『父に厳しく言われて。説得に戻ったのだけど』
歯切れの悪い話し方をする。何かを言おうとして躊躇っている。
「どうかした? 彩華」
『……結婚』
え――? つぶやかれた言葉が耳に重く響く。
『嫌って言ったのに、話が進められていて。父が家を出してくれないの』
彩華の声の終わりは震えて、泣き出している事がわかる。
『婚約者がいるなんて言ったら、伊織はきっと』
彩華をけして受け入れたりできなかった。
アンフェア―― それは愛ゆえに。
「彩華、君はどうしたいの」
『伊織、貴方はどうしたいの?』
駆け引きはいらない。失いそうになって思い知る。
what you want ―― 想いはひとつに重なり合う。
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