episodeー激情

5/6
206人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 何処へ――!? 胸元から携帯電話を取り出す。彩華にコールを入れると、すぐに通話が繋がる。 「彩華、今何処にいるの」 『……自宅なの』 事故では無い様子に胸を撫で下ろす。 「心配したよ、急に帰るから」 『父に厳しく言われて。説得に戻ったのだけど』 歯切れの悪い話し方をする。何かを言おうとして躊躇っている。 「どうかした? 彩華」 『……結婚』 え――? つぶやかれた言葉が耳に重く響く。 『嫌って言ったのに、話が進められていて。父が家を出してくれないの』 彩華の声の終わりは震えて、泣き出している事がわかる。 『婚約者がいるなんて言ったら、伊織はきっと』 彩華をけして受け入れたりできなかった。  アンフェア―― それは愛ゆえに。 「彩華、君はどうしたいの」 『伊織、貴方はどうしたいの?』 駆け引きはいらない。失いそうになって思い知る。    what you want ―― 想いはひとつに重なり合う。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!