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episodeー告白
マイオフィスを閉鎖する為に、時折元の会社へ赴く。水波グループに籍を移してから、めまぐるしい業務に追われ、まだ残務処理が済んでいなかった。
「あとは、こちらとこれにサインをとの事です」
「譲渡契約書、まだ他にも書類があるのか」
事務所を閉鎖する迄に、しなければならない手続きが思った以上にある。
「お疲れに見えます、大丈夫ですか」
「君には申し訳無かったね。入社から間もないうちにこの結果で」
春先に入社をして来たばかりだったはず。名前は確か……
葉山 七緒―― 素直そうでにこやかな笑顔に好感があり、俺が採用試験を通した。
「え、凄い雨」
オフィスの窓を打ち付けてくる雨に、七緒が驚き目を見張る。強い風の音が唸る様に響く。
「まるで台風のようだな」
雨が振り続くと決まって思い出す。愛した人に傘を差し出したあの日の記憶を。
降りしきる雨をしばらく眺めていると、いつの間にか七緒が隣で窓の外を見つめている。
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