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「まだいたの。早く帰った方がいい」
「亜城……さんは、まだ帰られないんですか」
七緒はどこか沙羅を思わせる。汚いものに触れずに生きて来た、そんな瞳をしている。
だから君が言った言葉に、俺がどれだけ驚いたか、君にわかるだろうか。
「あ、あのっ。亜城さんっ、私をセフレにしてくださいっ」
真っ赤な顔をしながら、いったい何を言い出すのか。
「葉山さん、相手を間違えてない?」
軽く頭に手を乗せる。顔を覗き込むと、七緒はさらに真っ赤な顔をして俺を見上げる。
「わ、私。ずっと亜城さんが好きでした。他の会社に行かれて、会えなくなるなら言わなくちゃって」
「それがどうして、セフレなの」
突拍子も無い言葉に思わず吹き出す。意味を理解して七緒は口にしているのかさえ疑問になる。
「だって…… 亜城さんは想う方がいらっしゃいますよね?」
潤む瞳が真っ直ぐに俺に向く。
「そばにいたいだけなんです」
七緒の言葉が胸を掴む。忘れ得ぬ記憶を呼び戻す。
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