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そばにいたいの―― あの日、沙羅はそう言って俺に抱かれた。
「悪いけど、その気は無いよ」
まだ何かを言い掛けた七緒を帰す。
窓の外を眺めていると、ビルから出て行く七緒の姿が見える。目で追いかけると、やがて七緒の姿は人混みの中へと消えて行く。
色とりどりの傘が四方に広がる。彼等は何処から来て何処へ向かうのだろう。
弟である來斗を補佐する。将来を約束されていながら心は満たされない。
あたたかな飲み物を淹れよう。俺らしくない、オフィスの奥にある給湯室へ向かう。棚に手を伸ばし珈琲の用意をしていると、ふわっと背後から甘い匂いが漂う。
「どうして君が此処に」
学生時代、高嶺の花だと噂をされていた彼女だった。長い髪にしなやかな身体。紅い唇が美しい人。
瀬名 彩華―― 七緒とは対象的な女性がそこに立つ。
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