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耳を疑ったのは次の瞬間。
「伊織…… 偽りの恋人になってくれないかしら」
「偽り? 何を言ってる?」
セフレの次は偽の恋人。雨が惑いを連れてきたのか。窓の外に目を向けると降り止んだのか、うっすらと西陽が差し込んでくる。
「貴方が女性と暮らしている、そう聞いたの」
彩華はおそらく沙羅の事を話している。
「私、もうすぐ結婚が決まっているの」
「だから? 結婚前の火遊び?」
「違うわ、伊織といたいのよ。貴方が他の女性となんて…… 苦しいの」
溜息が出る。俺が手にしたいものは、そんな乾いた愛じゃない。
「話は聞かなかった事にするよ」
彩華の父が持つ企業は、水波グループとも繋がりがある。こじれさせて來斗の足を引っ張るわけにはいかない。ようやく兄として來斗は俺を認め始めている。
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