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episodeー鼓動
数日後、完全にオフィスを引き上げる為の作業をしていた。引越し業者を手配し、手が不足した分は自分達で賄う。
「呼びつけて悪いな。助かるよ」
血の繋がりが無いと知った後、結弦は一時期俺を避けた。沙羅が結婚式を挙げ幸せだと耳にすると、結弦の態度は和らいだ。
「終わったら兄貴のおごりな」
亜城姓を名乗る俺を変わらずに兄と呼ぶ。もしかしたら結弦が一番、芯が強い奴だったのかもしれない。
「結弦、どうした?」
何に見惚れている。結弦の視線の先を目で追う。
業者が色々と家財を運び出し、そばで指示をしている七緒の姿がある。
「葉山七緒さんだよ」
「え、いや、俺は……」
曖昧に取り繕うとしても無駄だ。何年お前と暮らして来たと思っている。
「声をかけてみたらどう?」
結弦の躊躇いがわかる。七緒の持つ最初の印象は沙羅に似ている。
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