第11話

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第11話

第11話:春  去年の秋に花壇に植えたスノードロップが花を付けていた。 初めて見たけど、細い茎の先にベル型に咲いていて、下向きについている3枚の花びらは、それぞれが真っ白い羽のようだ。とてもきれいだ。  スノードロップに見とれていると、アヤちゃんが迎えに来てくれた。  「アカ、学校行こう。」  とアヤちゃんはいつもの笑顔で言ってくれた。  「うん。行こう。あ、ねぇねぇアヤちゃん、この花きれいでしょ?スノードロップっていうんだって。」   それまで特に気にも止めていないふうだったアヤちゃんの眼に、スノードロップが写っていた。  「ほんと、きれいね~。まるで妖精の羽みたい。」  と言っていた。  アヤちゃんと話しながら学校に行って、教室の席に着いた。 お昼時間前の道徳の時間に、先生が、  「もうすぐみなさんは6年生になります。小学校生活最後の一年となります。 そこでみなさんに宿題を出します。  生きるとは、幸せとは何かを調べてきてください。  難しく考えなくても大丈夫です。お父さんやお母さんや、兄弟でも姉妹でも誰でもかまいませんから、そのことを聞いてきてきてください。  次の道徳の時間に発表してもらいます。」  とのことだった。  下校時、早速アヤちゃんに聞いてみた。  「私は、美味しいご飯が食べられて、アカと遊べることかな。」  うん。私も美味しいご飯は好きだし、アヤちゃんと遊ぶのは好きだ。  帰宅後、保育園から帰ってきたワカに聞いてみた。  「おままごとすること。」  うん。ワカらしい。  ママにも聞いてみた。  「みんな笑顔でいることかな。」  ママらしい答えだ。ままはいつでもみんなの心配をしてくれている。  翌日、学校帰りに少し遠回りして、おばあちゃん家に寄って、おばあちゃんに聞いてみた。  「アカとワカが元気でいてくれること。」  おばあちゃんらしい答えだ。おばあちゃんはいつでも私とワカのことを気にかけてくれている。  ついでに、エリちゃん家に寄って、エリちゃんに聞いてみた。  「そうねぇ。基礎練習が練習が毎日滞りなく出きることかな。」  いかにも音楽家らしい、自分に厳しいエリちゃんらしい答えだ。  さらに翌日、ママの友達の笛吹さんにも聞いてみた。  「毎日、笛が吹けることかな。」  と、エリちゃんに似た返答だった。  結局、頭の中で宿題の内容がまとまらなくて困っていると、  「ねぇ、アカ、白鳥って知っている?あの大きくてきれいな水鳥の」  私は野生のは見たことがないけど、動物園やテレビでは見たことがある。 「うん。知っているよ。」 と言った私の言葉の後で、笛吹さんは続けた。  「白鳥は実はすごい努力家でね。水面を優雅にスイスイと泳いでいるけど、実は水面下では両足をバタバタして泳いでるんだよ。  実は美しくあるためには、見えない努力をどれだけできるかが大事で、白鳥はご飯を食べるために、泥に頭を突っ込んできれいな顔を汚すことだって生きるために時にはする。でも、それでもきれいだと思うのは、白鳥にきれいでいようとする真っ直ぐな心があるからじゃないかな。  きれいでいようとすることと、生きることと、幸せを見つけることって、すごく似ていると思う。  私は諦めないことが、生きることと幸せになるためには、何よりも大事だと思うよ。」  と言った。笛吹さんの言葉は、何となくわかる。  私も白鳥のように生きられるかな。でも、少しずつ努力はしていこう。 そして、ワカとママと私とで、この先もずっと笑って暮らしていきたい。  翌朝、花壇のスノードロップがもう一輪咲いていた。ワカを保育園に連れて行く前のママと三人で、それを眺めていた。  「スノードロップはね、雪解けの時期に咲く花で、もうまもなく春がやってくることを告げてくれる花なの。」  とママは言った。  「きれいなおはな。」  とワカが言った。  「このお花、来年も咲くかな?」  と私。  「球根で増えるから、来年もここで咲いてくれるよ。花言葉は希望だよ。」  とママが言った。  「じゃあ、来年も希望がいっぱいだね。」  とワカが言った。  「うん。きっと希望が溢れているね。」  と私は言った。  まだ寒い朝風の中で咲くスノードロップは、私たちを祝福してくれるようにその羽を揺らしていた。
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