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第12話
第12話:新しいけど何にも変わらない春
4月になり、私は6年生になった。
クラス替えがあったので、アヤちゃんとは別々のクラスになった。
でも、私たちはこれからも変わらずに親友だ。
今日の授業は、写生がメインの1日だ。桜の花びらが舞い散る校庭で、私はグランドから見える、あの市民体育館と貯水タンクを描いていた。自宅で見るのとは角度が違うから、絵で描くと別物のように思えてくる。
春は不思議な季節だ。別れもあるし出会いもある。
それから、まだ処理できない想いも正直に心の中にある。
いつだったか、あの悲しみに打ちひしがれているときに、誰だったかが教えてくれたことがあった。
「ねぇ、アカ。不思議の国のアリスって知ってる?」
「あの、うさぎを追いかけて、小さくなったり大きくなったりするあの夢の物語?」
「そう。そのアリス。アリスってすごいと思わない?」
「・・・そうかな?私は、おもしろいしかわいいけど、最後の辺りが怖くって、最後にあれはアリスの夢のお話ですんで良かったって思う。」
「うん。そこなんだよね。私がすごいって思うところは。目が覚めたアリスが物語の最後になんて言うか知っている?
すごく面白かったって。
そういったんだよ。
あんなむちゃくちゃな世界で、自分の命も危うい世界に放り出されて、それでも好奇心は失わなかったし、全部乗り越えて、すごく面白かったって。
すごいと思わない?」
確かにそういわれてみると、そうかも知れない。
「私は、アカにアリスみたいな強い女性になって欲しいなって思っている。だから、どんなときでも諦めないでね。」
あの時の言葉を思い出す。
桜色した小高い山の上に立った市民体育館。その左側には大きな貯水タンクがある。
春の日差しを浴びて、宝石のようにきれいだ。
うん。私は諦めない。笑顔でいることを忘れずに、これからも生きていく。だから、見守っていてね。
ぽかぽかした春の陽気に、ひときわ強く吹いた春風が、桜の花びらを舞い散らせ、グランドを一気に春色にした。
おわり。
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