第4話

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第4話

第4話:夏休み  梅雨がまだ明けていないのに、私の小学校ではプール授業が始まっていた。 今日の私のクラスは3時間目と4時間目がプール授業だ。見上げると、まだどんよりした空が広がっているけど、ジワジワともう蝉が鳴き始めていた。 プール開きの日は、いつもわくわくする。でも、私は水着を着ることに抵抗もある。  いつもの教室は、隣の教室が男子の着替えで、私のクラスが女子の着替えになる。私は女子同士でも、同じ空間でみんなで着替えるというのに少し抵抗がある。 でも、水着に着替えて、ラッシュガードを着て、サンダルに履き替えてしまえば、もう大丈夫。プールサイドでみんなでラジオ体操をしている間は、もう楽しいわくわくが止まらない。    まずはプールの縁に座って足先を水に付けてみると、ひんやりとした水の感触と水の流れが体温をほのかに奪っていく感じが気持ちいい。その状態で、プール授業で水の事故から安全を守るための注意事項を聞いた。そのあとで、先生の合図で、みんなでザブンと肩までプールに浸かった。なんて気持ちがいいんだろう。夏の一番の楽しみだ。   今日は、水泳の授業と言うよりも、今日はみんなでプールの水に親しむと言った感じが強かった。  私は、同じクラスの親友のアヤちゃんとプールの中ではしゃいでした。  アヤちゃんは保育園の時からの私の親友だ。去年の引っ越しの時に、転校する事になってアヤちゃんともう会えなくなったら、どうしようと思っていた。でも、学区が一緒の所に引っ越せたので、転校することはなかった。それは本当に嬉しかった。  アヤちゃんは、何でも聞いてくれる。どんなことでも一緒に笑ってくれる。  その週の金曜日には、夏休み前の全校集会があった。明日からもう夏休みだ。私は、今年の冬に描いた絵が再評価されたようだ。壇上の校長先生に名前を呼ばれて、みんなの前で表彰される。事前に担任の先生から聞いてはいたけど、やはり緊張する。  教室に帰って、担任の先生から夏休みの注意事項を聞いて、それから夏休みの宿題を受け取った。 ・・・・宿題、すごい量だ・・・。 今年の夏こそ、早く終わらせて、その後は思いっきり遊ぼう。 と決心した。  下校時間になって、私とアヤちゃんは、いつものように一緒に下校しようとしたけど、そこに、そこそこ仲良くしているキオちゃんとカヤちゃんが一緒に帰ろうとよってきた。キオちゃんとカヤちゃんは、二人ともおしゃれだ。服も文房具も総てがかわいい。  4人で帰ることとなったのだけど・・・   「アカリちゃん、おめでとう。すごいね。」  とキオちゃん。  「何か特別なことをしているの?」  とカヤちゃん。  ほめてくれているのは嬉しい。本心なんだろうけど、そこに何かがありそうで、心に引っかかる。 ここで、「そうでしょ。すごいでしょ。」なんて言おうものなら、後でどんなことを言われるかわからない。  「いや、そんなことないよ~。偶然、ほんと偶然なんだよ。本当に大したことないんだよ。」  と言って謙遜してみる。 女子の仲良しは複雑だ。そこには仲間内で目立たないこと。仲間をほめあうこと。そして、自分たちの友達の輪を守ること。これらが仲良しである条件だ。 だから、その中で私だけが賞状をもらうことは、あとで気を使うことになる。  私の本音はそんなの面倒くさいと思っている。学校でもテレビでも、個人が大切、個性を伸ばそうと言いながら、友達の輪に縛られるのはちょっと違うんじゃないかと思う。 でも、だからといって、友達の輪が大切とも思うから、我ながら女子は面倒くさい。 その点、男子は、自分自身がかっこいいと思える人物を仲間として付き合っていくらしい。女子の私にはよくわからないことが多いけどね。  帰宅してから、テレビをみて、ぼーっとしていると、さっきの光景が浮かんできて、涙があふれてきた。なぜあんなに謙遜したんだろう。 私は本当はすごくすごく頑張って描いて、すごく認められて、すごく嬉しかったのに。なんでそんなに仲良くもないキオちゃんやカヤちゃんにあんな事を言ったんだろう。なんで私には勇気がないんだろう。  そこに、玄関のチャイムが鳴った。玄関を開けると、そこにアヤちゃんが立っていた。   「アカ。一緒にあそぼ。」  そう言ったアヤちゃんに、自分がしたことなのに悔しかったと泣きついた。   そしたら、  「そんなこと気にしなくていいのに。」  となだめてくれたんだけど、今度はそれがもやもやする。 この事で、アヤちゃんとの仲が悪くなったらどうしよう。  アヤちゃんは、泣き続ける私に対して、また明日遊ぼうと早々に帰って行った。  その後散々泣いて、すっきりした後は、何であんなに悲しかったのかわからなくなっていた。ただ一つ、明日も遊ぼうと言ってくれたアヤちゃんに対して、明日はどんな顔であったらいいのだろうかと、少し不安が脳裏を横切った。  翌朝、朝ご飯を済ませて、宿題をしようと机に向かていた。私は、手動の鉛筆削りで鉛筆が削れていくのをみるのが好きだ。ごりごりという音を立てて、鉛筆の先が削れてぴかぴかになるこの感じが好き。なんか集中できる。気がつくと10時になっていた。  玄関のチャイムが鳴った。アヤちゃんだ。  「アカ、プールに行こう。」  と、昨日の私の事なんてなにもなかったかのようにそこに立って、笑ってくれている。 つられて私も笑顔になる。うん。私はアヤちゃんが好きだ。大好きな友達だ。  「ちょっと待ってて。すぐに準備する。」  といって、プールの支度をして、一緒に市民プールへと出かけた。  真っ青な空には、まだ朝なのに力強いお日様が輝いていた。
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