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第6話
第6話:秋の授業参観
リン、リリリン。
暑かった今年の夏が過ぎた。でも日中はまだまだ暑い。だけど、夜はようやく過ごしやすくなった。お風呂に入って、お布団に入っているのが気持ちいい。気がつくと、虫の鳴き声がする。虫は怖いけど、秋の虫の鳴き声は好きだ。
来週の木曜日は授業参観だ。そのときに、一人一人が今まで生きてきた歴史を自分自身で発表して、ついでに自分が気に入っている写真をモニターに映すというものだ。そのときの発表内容を、原稿用紙に書くのが今日の宿題だ。学校から帰ってきて、あれやこれやと考えていると、夜が深くなっていた。窓から見える、お姫様が胸元につけていそうなネックレスのような三日月がとてもきれいだった。
「うん。これでいい。」
原稿用紙に書いた文章を読み直して。私は独り言を言った。授業参観はママは来てくれるのだろうか。そのときに使う写真はあれ以外に考えられない。私が大好きな写真。
その後で、棚にあったチョコレートとスナック菓子を取り出し、冷蔵庫にあったイチゴミルクをワカと一緒に食べた。ワカと一緒に食べるお菓子はいつでもおいしい。
その週の土曜日は、ワカとママと私とで、花壇に球根を植えた。植えたのはチューリップとスノードロップ。チューリップは知っている花だけど、スノードロップは知らない。
「雪解けの時に咲くきれいな花だよ。来年の2月頃に咲くよ。チューリップは春になってからね。」
とママは教えてくれた。
うん。どんな花なんだろう。球根が入っていたネットにはイラストが描いてあったけど、その通りなんだろうか。きっと本物の方がきれいに決まっているよね。今から楽しみだ。
そして、授業参観の日が来た。サッカーを頑張っているカイくんの発表は、サッカーで辛かったことと楽しかったことについての発表だった。
あやちゃんの発表は、おじいちゃんとおばあちゃんへの感謝がいっぱいだった。
その後、3人の発表があって、次は私の番だ。心臓がドキドキしているのがわかる。
「次の人どうぞ。」
という担任の先生の声で、私は
「はい!」
と言って立ち上がった。
私は少し緊張していた。みんなの前に立って、教室の後ろの掲示物の前で参観に来ている保護者の中に、ママがいることをそのときになって気づいた。ママは仕事の忙しい時間を調整して、来てくれたのだろう。
「私は、小さい頃、キティちゃんをキキィチャンと言ってました。麺類はラーメンもおうどんも全部チルチルと言っていました。寝るときには、ママの子守歌とお気に入りのウサギのぬいぐるみがないと寝られない子どもでした。私は、好きなものを探すのが好きです。好きなものを増やすことの楽しみを教えてくれたのは、私のママです。」
私の教室は2階にある。モニターのすぐ横からは窓越しにグランドが見える。秋晴れの青い空には、鰯雲が浮かんでいた。教室の黒板の左隣にあるモニターに、写真が映し出された。
ママが6歳頃の私の手を引きつつ、ワカをだっこしている写真。明らかにパソコンで背景が加工されていて、アングルやバランスが少しおかしい写真。ママも私も幸せそうに笑っていて、ママにだっこされているワカは、おくるみの中で眼を閉じて眠っている。
モニターに映し出された写真のママの右側には、もともとはあの人が写っていたはずだ。今日の授業参観に向けて、ママが用意してくれたこの写真。
私はいろんな意味で、この写真が好きだ。
「この写真は、私の妹が産まれた頃の写真です。このころの私は、もうチルチルとはいっていなかったけど、今でもうさぎのぬいぐるみを大切にしています。ママは辛いときも悲しいときも、そこから大切なものを見つけようとします。
ママは、お友達をとても大切にします。
私はそんなママが大好きです。
ママにだっこされている子は、妹のわかばです。わかばは、好きなことを好き。嫌いなことを嫌いとはっきりと言える子です。
私は、そんなわかばの性格が大好きです。
私は本当は泣き虫だけど、大好きなママとわかばとずっと楽しく生きていきたい。それが私の望みです。」
みんなの前でお辞儀をして、自分の席に戻るときに、ママの目頭がうるうるしていることに気づいた。
放課後、いつものようにあやちゃんと下校して、自宅に帰って、テレビを観ながら宿題をしていた。それからしばらくして、ママが保育園帰りのワカと一緒に帰ってきた。
「アカ、今日の発表、とってもよかったよ、アカは私の自慢の娘だよ。」
と言って、私をぎゅっと抱きしめた。
その夜、ママとワカと私とでお風呂に入った。湯上がりのイチゴ牛乳は格別に美味しい。パジャマを早く着すぎたせいか、汗が流れてきた。
湯上がりでほてった身体を冷やそうと窓を開けると、澄んだ夜空に、まん丸になりつつある月が昇っていた。
小高い丘の上、月あかりでできている山並みの陰影。そこに浮かび上がる市民体育館と貯水タンク。月あかりが優しく照らすこの夜空の灯火。虫の鳴き声。こう言うのもとても好き。
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