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第9話
第9話:お正月と誕生日
外は北風が吹き荒れていた。
昨日は大晦日で、ワカとママと私とで自宅中の掃除をした。疲れ果てて、お風呂に入ってからすぐにお布団に入った私は、今日の朝までぐっすり眠っていた。
目が覚めて、時計を見ると、もう午前8時を過ぎていた。テレビをつけると、晴れ着を着た芸能人が「あけましておめでとうございます。」と言っている。
まだ眠っているママとワカを起こす前に、二人を少し驚かせようと、朝ご飯の用意をしてから起こした。
「ママ~。ワカ~。朝だよ。」
とママとワカを起こして、朝ご飯の用意をした。今日の朝ご飯はいつもとあまり変わらないイチゴジャムパンと、温かいココアだ。
昨日はお掃除に追われて、おせち料理の仕込みが間に合わなかったこともあって、結局は商品のおせち料理を今日買うことになった。
だから、食べられるのは今日の夕方からだ。
三人で遅めの朝食を食べて、ママからお年玉をもらって、それからお昼前に近くの神社に初詣に行って、それからおせち料理と福袋を買いに行った。
私の買った福袋は、文房具の福袋で、中にはコアラの表紙が有名なお菓子箱の形をした筆入れ、細長いチョコ菓子を模した鉛筆が5本、透明ピンクにキラキラしたラメ入りの下敷きと定規で、どちらもファンシーなうさぎの絵が描かれている。あまりにもかわいいので、使うのがもったいない。そうだ、今年の春から使おう。
おせち料理を買って、自宅でのんびりしていると、ドアベルが鳴った。
ママに出迎えられて訪れたのは二人。それから少し遅れて二人が訪れた。全員ママの高校時代からの友人で、全員同じ部活だったそうだ。
細身のママからは想像もつかないけど、ママもかつては飛んだり走ったりしていたのだろうか。
「じゃあ、はじめよっか。」
と言ったママの合図を皮切りに、卓上コンロの上のお鍋の加熱が始まって、同時に宴会が始まった。
お酒が入って、大人たちの顔が赤くなっていく中で、ワカと私は、ママのお友達からお年玉をもらった。
しかしすごい。赤い色や透明ものや、茶色い瓶に入っていた液体が次から次へと空になっていき、食べ頃になったお鍋の中身と目の前のおせち料理がみるみるうちになくなっていく。
体育会系の集まりというのはこういうものなのだろうか。
この場に、ママの親友のエリちゃんがいないのは妙に納得できる。
でも、エリちゃんもたまには音楽のことを忘れて、こうやってみんなと一緒に楽しんだらいいのにって思う。でも、エリちゃんは何よりも音楽を大切にするんだろうなって思う。
お正月は、こういうイベントがあるから、なんだか幸せな気分になる。
でも、翌日、ママの様子がおかしかった。宴会が終わって、解散してから、そのままソファで寝てしまったのだけど、どうやらそれが原因で風邪を引いてしまったらしい。
熱を計ってみると、体温38.7度だった。ぐったりしているママに、ストックしてあった風邪薬をお水と一緒に飲ませて、掛け布団をママのベッドから持ってきて、ママに掛けた。
で、ここからが一番大変だった。昨日の宴会のままになっているあのテーブル周りとキッチンの片づけ・・・。
うん。頑張って私がやる。
・・・・ことにしたのだけど、あまりの多さに、気が滅入ってくる。
でも、頑張るよ。少しずつ片づけて、少しずつきれいになっていくのは、なかなか達成感があって気持ちがいい。大変だけど、こう言うのも好き。
その後、ママはインフルエンザに罹患していることがわかった。ママはその間、一週間ほど自宅で過ごしていた。ママは高い熱が出てしんどかったと思う。
でも、私はママがずっと自宅にいてくれることが嬉しかった。それに、普段忙しくてろくに休みもとっていないママは、こんなことでも ないと休めない。
だから、
「こんな時くらいは休んでいいんだよ。」って心の中でママにつぶやいた。
お正月が終わってしばらくすると、ママが、
「もうすぐ、123(ワンツースリー)がやってくるね。何かほしいものある?」
と言った。
123(ワンツースリー)とは、1月23日のことで、私の誕生日だ。
「う~ん。今のところ、そんなにほしいものないかな。」
と、ちょっと遠慮してみる。本当は、新しいマンガや靴やうさぎのかわいいキーホルダーとか、ほしいものはいくつかある。
その中でも今一番欲しいのは色鉛筆だ。
この前、テレビで観た美術大学の学生さんがその色鉛筆を使って、花畑の絵を描いていた時に使っていたもので、48色入りだから微妙な色分けができるすぐれもの。
でも、それはちゃんとした画材屋さんにしか売っていそうにないし、それに高そうだから、それが欲しいとはなかなか言えない。
お誕生日の週のはじめに、ワカのお誕生日の時と一緒のように、ママの友人の笛吹さんが遊びに来てくれた。
少し早いお誕生日にと、笛吹さんが作ってくれた料理は、ポテトグラタンと、オニオンスープ。そして、リンゴとキウイとパイナップルのフルーツの盛り合わせ。おなかいっぱい食べたあとで、笛吹さんはハッピーバースデーを吹いてくれた。
そして、123(ワンツースリー)当日、朝起きると、頭もとにピンクの包装紙に赤いリボンが施されているプレゼントが置いてあった。一瞬、時季はずれのサンタさんからのプレゼントかと思ったけど、この前のサンタさんからのプレゼントはぬいぐるみをもらった。今は私の机の上に座っている。だからそんなはずはない。
リボンの隙間に、「ママより」と書いてあるメッセージカードが入っていた。
「大好きなアカへ。11歳のお誕生日おめでとう。そしていつもありがとう。これでアカのイメージを大きくして、アカの世界をどんどん増やしていってください。」
と書いてあった。
リボンをほどき、包装紙を開けてみると、欲しかった48色の色鉛筆が入っていた。
ママはなんで私がこれを欲しいって知っていたのだろうか。
私は嬉しくって涙が溢れてきた。
キッチンで朝ご飯の用意をしているママに、
「ママありがとう。何であれが欲しいってわかったの?」
ママはにこっと笑って、
「私は、アカのママよ。アカの欲しいものくらい何でもわかるんだから。」
と言った。
ママ、ありがとう。
その夜、お誕生日にと、あばあちゃんとおじちゃんと、ワカとママと私とで、お寿司を食べに行った。
とても幸せなお誕生日だった。
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