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第1話
アカとワカ
第1話:私の好きな場所。
小高い山の上に立った市民体育館。その左側には大きな貯水タンクがある。
私の家からは、坂の少し先にあるそれらが見える。そのふたつは木々の山並みとはミスマッチに思える。けど、朝日が昇った陽の光を浴びて、ガラス窓や柱や螺旋階段の鉄柱がきらきらと輝く。そのときのそれらのコントラストは見事だ。宝石のようにきれいだ。
私の住んでいるN市は、電車に乗車すれば世界中の人々が訪れるK市に着く。K市は本当にきれいな所だ。それに何でも揃う。でも、私はここN市の方が好きだ。N市は、短い間だったけど、かつて都が置かれたこともあり、歴史の教科書にも出てくる有名な場所だ。この程良く自然が残るこの場所が私は好きだ。
言い忘れたけど、私の名前はアカリ。あの朝日を受けたときの体育館や貯水タンクのように、灯火を得てそこに特別な価値を造るように、そんな想いで私はこの名前を気に入っている。ママは一生のすてきなプレゼントを私の名前にくれた。でも、みんなはそんな私の思いを別に、私の事をアカって呼ぶ。その方が言いやすいからかな。私自身は、特に気にしてはいないけどね。
それから、私の家族は、ワカとママと私で構成されている。
私の家族を少しだけ紹介するね。
妹のワカの本当の名前は、ワカバと言う名前だけど、みんなワカって呼ぶ。ワカは、物事の好き嫌いがはっきりしていて、おままごとやお姫様ごっこが大好きな女の子。喧嘩もするけど私はワカが大好き。
ママは、娘の私から見ても美人だ。自分のお友達を本当に大切にする。控えめにみてもお人好しなその性格は、時に大きな問題をひとりで抱えて悩むこともある。ママと私はよく似ているなって思うことがよくある。特に似ているところは、太くて強い髪の毛の質と、指の形。後は、心配性なところと忘れっぽいところ。似ているせいか喧嘩もするけど、一緒に泣いたりもするけど、私はママが大好き。
高台にある小学校から帰って来て、大親友のアヤちゃんと遊んで、おなかが空いて帰宅しようとしたら、ママがご飯の準備をしてくれていた。今日はシチューかな。バターとミルクの甘さの中に、少しスパイシーな香りが漂っていた。
窓の外を見ると、いつの間にか夕日が燃えるように輝いていた。この夕日に照らされたあの体育館と貯水タンクは、朝日の時とは違う美しさを見せてくれる。
私はこの場所が好きだ。こうやって、どんなことがあっても、好きなものを増やしていけるといいなって思ってる。それが私の日常。
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