あの子がいなくなった

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なぞなぞです。 小さいときは見えるのに、大きくなると見えなくなるものはなーんだ。 マサト君は皆とお話をしない。でも、僕にだけはお話してくれる。僕の友だちなんだ。 幼稚園の運動会のかけっこで1番になった時、お父さんがスッゴク誉めてくれたんだって。それから、お父さんはマサト君を肩車して「マサトずごいな、すごいな」って言いながらおうちに帰ったんだって。マサト君はとても嬉しそうだったよ。 それから、マサト君と二人で遊ぶのは楽しいんだ。追いかけっこしたり、お絵描きしたりして遊ぶよ。今は『あっちむいてほい』をして遊ぶのが楽しいんだ。あんまりにも楽しくて、楽しくて、笑いが止まらなくなるんだ。幼稚園のお友だちが、変な顔で見るからあんまり笑わないようにしているけどね。 でも、あの日マサト君は泣いていたんだ。お祖母ちゃんが死んだんだって。毎日ご飯を作ってくれて、幼稚園まで手を繋いで歩いてくれて、お弁当を作ってくれて、幼稚園まで迎えに来てくれて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝ていたそのお祖母ちゃんが死んだんだ。マサト君は皆とは話さないし、笑わないし、泣かないんだ。でも、僕と二人きりになるとマサト君は泣いたんだ。シクシク、シクシク泣いたんだ。僕は涙が終わらないと思ったよ。だから、僕はずっとマサト君の側にいたんだ。 お祖母ちゃんが死んでから、マサト君のお父さんは新しいお母さんを連れてきた。その人は、キレイで、優しくて、いい匂いがしたんだ。だから、マサト君は少し好きになったみたい。 新しいお母さんは、お祖母ちゃんがしてくれた事と同じ事をしてくれたんだ。毎日マサト君のお弁当を作ってくれて、マサト君の大好きな変身マンの顔がついたおにぎりを入れてくれるんだ。マサト君が僕に見せてくれたよ。とってもカッコいいんだ。マサト君はますます新しいお母さんが好きになったんだ。 それから少しして、新しいお母さんに赤ちゃんができたんだよ。お母さんのお腹がドンドン大きくなってくると、赤ちゃんも大きくなってくるんだって。マサト君は産まれるのを楽しみにしていたよ。 マサト君はお兄ちゃんになれるかなって心配してたから、僕は応援したよ。まず、マサト君はお母さんとお話しできるように頑張ったんだ。朝お母さんのお顔を見て「おはよう」って言えたんだ。お母さんは泣きながら「おはよう」って「偉いね」って何度も何度も頭を撫でてくれたんだ。スゴいでしょ。それから、幼稚園のお友だちにも「おはよう」って言ったんだ。幼稚園のお友だちは最初ビックリしていたけど「一緒に遊ぼう」ってマサト君を誘ってくれたんだ。 それから、マサト君は幼稚園でも、おうちでもお話するようになったよ。よかったね。マサト君のお父さんも、お母さんともう大丈夫だって話していたからね。 「ありがとう。母親を病気で亡くし、お祖母ちゃんまで……。何もしゃべらなくなっていた正人をあそこまで支えてくれたのは本当にありがたいと思っているよ」 「いいえ、私は何もしていないわ。正人君には私達には見えないお友だちがいたみたい。その子がずっと正人君を支えていてくれていたのよ」 そう、僕は悲しい思いをしている子ども達が大丈夫になるまで一緒にいてあげるんだよ。妖精とか、座敷わらしとか、精霊とか名前はいっぱいあるんだけどね。子ども達は大人になると、僕の事を忘れてしまうんだ。でも、僕は幸せだよ。つぎは誰とお友だちになれるかな。 「正人君、いっつも一緒に遊んでたあの子はどうしたの?」 幼稚園のお友だちが聞きました。正人君は笑顔で答えます。 「あの子はいなくなったんだよ」 「ふーん。つぎは、皆で追いかけっこしよう」 お友だちは明るい声で誘います。 「追いかけっこ大好き。負けないよ」 園庭には正人君と、お友だち達の笑い声が響いていました。
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