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朝目を覚ますと、あの子はいなかった。
お店で一目惚れをして、優しい祖父に買ってもらった犬のぬいぐるみ。
白い毛がふわふわで、抱きしめると鼻がくすぐったくなっちゃう私の友達。
私たちは出会ってすぐに仲良くなったから、どこへ行くにも一緒だった。
自転車のカゴに乗せて坂道を登ったり、顔だけ出して鞄に入れたり、パーカーの内側に抱っこしたりして、学校の時間以外はずっと一緒だったのだ。
だから、あの子がそばに居ないだけで私は心細くて仕方ない。
あの子はどこに行ったの?
って、私が聞いた。
汚れてたから捨てちゃったよ。
と、母が言った。
私は母の言葉をしばらく理解できなくて、胸のあたりがスゥーっと、辛いガムを食べた時みたいに寒くなった。
それでもあの子とはもう会えないんだってわかるくらいには大きくて、だからって泣いて駄々こねるのは恥ずかしいと思う年頃で。
思うことはいっぱいあるのに、それを言葉に変換するには私の脳はまだ幼かった。
だから私は、そっかって。
それだけ言った。
その日の夜は布団を頭までかぶって、苦しいくらいに膝と頭をくっつけて眠った。
慰めてくれる友達はもう居ない。
透明のビニールの中で臭い臭いゴミに囲まれながら、プラスチックの瞳でこちらを見る。
そんな友達の夢を、私は今も。
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