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第二話 get separated
ことあるごとに、この男はぼくに話しかけてくる。
あすみ、あすみ・・・と。
けれどあまりぼくとの接し方がわからないらしく、結局は諦める。
ときどき目が合うと、衰弱した顔をして問いかけてくる。
僕は未来の世界で飛ぶように売れている猫型ロボットだ。
あすみは未来の世界で大病を患い静養中。
過去の人間などと関わりを持たない方が楽に決まっているのに、彼女はこの男と恋に落ちた。
最初は風邪が長引いているだけだと思っていた。
けれど体調の悪さに追い詰められたあすみは確信した。
医者からいやな知らせを伝えられる前に。
「終わりを迎える前に真実を伝えたいの」
流通しているロボットの中で、僕は人を慰めるのに適していると思ったのだろう。
歯磨きのペーストを口の端に残しながら、あすみの帰りを心待ちにするこの男を僕に救えるのだろうかと自問してみる。
優秀な僕でも、こんな大役を押しつけられるのはごめんだ・・・。
私たちの車は大破した。
薄れゆく意識の中で、人が集まってくる音が耳に入ってきた。
できることならば、もう少し長く子どもたちのそばにいて、彼らの成長を見届けたかった。
あすみとの最後の日、私は彼女に突き離した言い方をしてしまった。
まだ幼かった彼女はそんな私の態度に明らかに判然としない表情をしていた。
近くにいた息子はすぐに不安定な私の様子を見抜き、慌てて学校へ向かった。
「僕、もう行かなきゃ」
主人との関係はもう時間の問題だった。
彼との間に決定的な何かがあったわけではなく、長年の間に蓄積されたズレが爆発しそうだった。
良くないと分かっていても、限界を超えた私は子どもたちにあたってしまうことがあった。
別の世界へ来てしまった今、彼らの手本になる親でいられただろうかと不安になる。
「ママ疲れてる?・・」
あすみがよく私を気遣ってくれた。
主人との口論に息子は聞き耳を立ててはいたが、閉口しているだけだった。
命を落としてしまうのなら、彼らの前での悶着は慎むべきだった。
本当に自分が嫌になる。
成長するに連れてポーカーフェイスや自分の気持ちを隠すのが得意になった。
両親の諍いに、僕は柔軟に対応することができなかった。
生きた状態でまた両親に会えるのなら、許してほしいと言いたい。
記憶に残っているのは、母を助けるために果敢に父に立ち向かう妹の姿。
子どもの前で遠慮なしに意見を衝突させる両親に、僕は腹が立っていて、どうしても家族を守る必要があるとは思えなかったのだ。
あすみには小さい頃から人を引きつける魅力があった。
家族の仲が元に戻ると固く信じている彼女に、巻き込まないでほしいと思う自分がいた。
医者から両親が助かる見込みがないと聞いたとき、家族の問題に力を注いでいなかった自分を情けないと思った。
彼らを失ってから、僕の気持ちが落ち着く事はない。
これからもずっと罪の意識を背負っていかなければならないのだろうか。
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