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第四話 I'm hanging in there
「お、今日は早いな~」
折り目の正しいユニホームの黒いパンツを履いた良太は無言で頷いた後にぼそりとバイトに遅れると思い慌てて家を出たらフライング気味だったと言った。
「悠斗はさ、今までの世界が突然変わったことはあるか?」
良太は今も記憶に残っているあすみさんの面影をぼんやりと想い浮かべているようだ。
「う~ん、白状するとな・・・、実はある」
良太は少し驚き、そうか・・・、すまんなと言った。
「お前みたいなケースは極めて稀だと思うけど、今のお前の心境はなんとなくわかる気がするよ」
「よしっ!」
何かの覚悟を決めたような顔をした良太は改心のチャンスだ!と言った。
「???どうした、どうした」
「俺は甘かった。」
突如覇気が出てきた良太に怯んでいると、彼は正直待ち続ければあすみは自分の元にある日ひょっこりと戻ってくるような気がしていたと言った。
「彼女が姿を消した真の目的はわからないけど、俺にとって何か意味があってのことだと思うんだ。」
「お、おう」
絶好調とは言えないが、弱々しかった良太の声に少し元気が出てきたような気がした。
あすみさんは良太にとって与える人だったが、それを放棄したとはとても思えない。
これ以上憔悴している良太を見ずにすむのだろうか。
前を向き始めてくれたようなら、よかった。
母はときどきカッとなってキレることがあった。
「これ、腐ってる・・・」
まだ小さかったあすみが古くなった牛乳に口をつけた後、そうこぼした。
途端に母の顔は無表情になり、あすみに奇声があびせられた。
「ウソばっかり!」
肩を揺さぶられながら、どうしていつもそうなの⁉と問われている妹をかばう勇気が僕にはなかった。
お母さん、あすみは間違ってしまったのだと言わなければならない気がしたが、僕がそう言っても母には逆効果なように思えて、結局常に何もできなかった。
気が狂いそうな状況で、早く大人になりたいと思いながら、僕はなんとかやっていたんだ。
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