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電車にて
電車に乗るのは久しぶりなんですの。四つ先の駅近くに、戦前からの百貨店がありましてね、生け花展を見にまいります。
お昼は名物の鰻と決めております。そしてもう一つの決めごと、お友だちにはナイショですの。どきどきしますでしょ。
お花とお茶、和裁は少々詳しいですの。近所のお嬢様方にお教えしたり、呉服屋さんに頼まれて仕立てたりもいたしました。
やはりお花はよろしいですわね。季節を感じ、気持ちを落ち着かせますもの。勿論、気付けはいたします。
何て上品ぶってるけど、私はそんな女ではありません。確かにお茶もお花も着付けもできます。「なにがしかの資格を持っていると女は強くいられる」と言ってた母のおかげなんです。
古くさい父に悟られることなく得られる資格。私の田舎ではこの三つしかなかったのです。「女らしくていい」と勝手に思い込んでいた父は考えもしないことでしょうね。
帰りの電車は下校時間になっていました。高校生がたくさんいます。少し髪を染め、少し化粧をした少女たちもいます。背伸びをした姿は可愛らしくもあります。
その中に気になる少女がいます。ちょっとぽっちゃりで丸顔のその子、昔の自分を思い出します。今では珍しいセーラー服が眩しいです。
次の駅で降りるのでしょう、歩き出したら目が合いました。恥ずかしそうに声をかけてきました。
「いつか歳を重ねたら、あなたのようになりたいです。白い髪にメッシュを入れ、綺麗にマニキュアをして、背筋をしゃんとしていたいです。センスある服も素敵です」
それだけを言うと、ホームへ降りてしました。 驚いた私は声も出ません。今日一番の驚きは嬉しさも膨らませてくれます。
家族に報告しましょう。お嫁さんが染めた髪と爪、孫娘が選んだ服が誉められたんですから。何か買って帰りますね。
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