ぼうし

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ぼうし

『ぼくは、がっこうのぼうしが、すきです。 やきゅうせんしゅみたいに、かっこいいからです』 引っ越し準備のために片付け始めていた。押し入れの奥から出てきたのは、下手くそな文字が連なる昔の作文だっだ。 読み始めたら思い出したのは、この先のこと、そして祖父のこと、初めて誉められた作文がこれだったこと。 プール公開日のある日、幼なじみと別れ一人になった時、少し先を歩くいている祖父を見つけた。 「じいちゃ~ん」 「おかえり。プールでたくさん泳いだか?」 なんて話しながら歩いてた。 ある家のフェンスに、小学校の黄色い帽子が引っ掛かっていた。さっき降った雨に濡ずにいたのはビニール袋に入っていたからだ。口をきつく縛って玉のようになったとこを隙間に挟んであった。 「誰のだよぉ。」 「名前が読めるぞ」 上手い具合に名前が外から見えるよう畳んであった。その名前は同級生だった。 「だいたい、誰がここにぶら下げたんだよ」 「今どき珍しいなぁ」 じいちゃんは小さく呟いた。 「昔はみんなこうしたぞ」 じいちゃんの説明しだした。 『ここに落ちてました。持ち主は持って行ってください。持ち主を知っていたら渡してあげてくたさい』 そんな意味があるらしい。そして、もう一つ。 『次は落とさないよう気をつけてくださいね 』 そんな会話を夏休みの作文にした数年後、祖父は亡くなった。葬式の日、母が言った。 「お祖父ちゃん、帽子の作文を覚えていたのよ。すごく誉めてたの。いつも言うの。『いつまでも覚えていてくれるかなぁ』って。」
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