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全二十八回の花占いでは、百二十万円を準備した方が良いとの統計結果が出てはいるものの、結構な金額のロスなので、なんとも痛手だなぁと私は思ってしまう。
わけて妻のことを大切に思っていない訳ではない。だが、価値観の不一致は、少なくとも一つや二つ、私と妻の隙間に確かに潜り込んでいた。
妻の好物は、私の嫌いなものだった。妻の行きたい所は、私の面倒くさい場だった。妻のやりたい事は、私の避けたい件だった。
これ程までに合わない夫婦が、果たして世の中に存在するのだろうか。少なからず、ここに一ペアは居るので、もしかしたら全国にはそういうのに悩んでいる人が大勢いるのではないか。
「皆、夫婦生活って大変なのかなぁ......」
私は、ため息を吐きながら、落ちた褄取草の花びらを小さなビニール袋に入れ始めた。散らかしっぱなしでは、また妻に怒られてしまうのだ。
「......。」
まぁ、でも。と、思う。
妻が居なくなった今、私は自由であることに気が付いた。結婚してからの三年間、籍を入れただけでは有ったが『結婚』という二文字の重圧は、じわりじわりと私の身体を蝕んでいた。
そのストレスは、私をパチンコやギャンブル、そしてお酒に向かわせた。時々家に帰らない事もあった。妻と一切会いたくない日があった。
「かくいう私は、何故結婚したんだ......」
「本当は、一人が良かったのだろうか......」
今日はやけに自問自答が溢れ出てくる。何だか妙な柵に手足が掴まれている気分になる。
けれども、その情緒の中には、やはり妻への心配もあった。
妻は、今どこで、誰によって拘束されているのだろうか。手紙には"命はない"と書いてあったが、もしかしたら今まさに、犯人に銃口を突きつけられ許しを請うている最中かもしれない。
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