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そんなことを想像してしまったから、私は脊椎に重たい金属片が詰まったような気分になった。
うまく呼吸ができない。
うまく立ち上がれない。
「落ち着け、落ち着け」
「よく考えるんだ......」
ごちゃごちゃ文句を言ってはいたけれど、妻は何があっても私の妻に変わりはないのだ。結婚したという責任と、大切にしなければいけない義務が、今の私を動かす最大の原動力になるのだ。
私は推理探偵よろしく、今までの状況とこの事件について思慮を巡らすことにした。
誰が何のために妻を攫い、百二十万円の端金を要求したのだろうか。何故、妻の誕生日を狙って誘拐を実行したのだろうか。
もしかしたら、偶然にも"誘拐日"と"誕生日"が重なってしまったとも考えられるが、その可能性は一/三六五とかなり低い確率である。
犯人は恐らく、妻を知っている人物かもしれないと、私は考えた。誕生日を知っている者は、私と妻と、そして共通の知り合いだけだ。
「だとしたら、何故誕生日に......」
考えれば考えるほど、ずぶずぶと不可解なミステリーに嵌っていくような感覚を抱く。
ふと私は、手元にある褄取草の花びらを見た。
「ツマトリソウ......妻を、攫う草」
あまりにも出来すぎているではないか。
妻がこの花を育て始めたのは、ある共通の男友達の影響だった。
その男の実家がお花屋さんだったので、この新居に引っ越した際、庭先に植える花を彼に選んで貰ったのだ。それが"褄取草"になる。
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