私の妻が居なくなりました。

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 その男は佐久間宏介という名前である。佐久間は妻の幼馴染であり、私の高校の同期でもある。  かつて佐久間は私の妻と付き合っていた。私が妻と交際した際には「お前に彼女取られちまった」なんて冗談めかして言ったこともあった。  もしかして、今になって未練がましくも妻を奪略して(めと)ろうと考えているのではないか。  そう思うと、私の中に純粋な苛々(いらいら)が湧き始めた。この気持ちは、抱いたことの無い生まれて初めての感情だった。  私は急いでスマホを手に取り、佐久間に電話を掛けた。今となっては犯罪者の可能性が高いので、電話口から出てこない場合もある。  しかしながら、私の思いに反して佐久間への電話は()ぐに繋がった。  「よっすー久しぶり」  間の抜けた挨拶が、私の耳に届く。  「佐久間か、今何してる?」  私は慎重に言葉を選ぶ。  「何って......ゲームしてるよ。そうだ、暇ならお前も一緒にやろうぜ」  剽軽(ひょうきん)な声で、佐久間は言う。その声に、私の緊張の糸がプツリと切れてしまった。  「あ、あぁ......ちょっと待って」
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