32人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
その男は佐久間宏介という名前である。佐久間は妻の幼馴染であり、私の高校の同期でもある。
かつて佐久間は私の妻と付き合っていた。私が妻と交際した際には「お前に彼女取られちまった」なんて冗談めかして言ったこともあった。
もしかして、今になって未練がましくも妻を奪略して娶ろうと考えているのではないか。
そう思うと、私の中に純粋な苛々が湧き始めた。この気持ちは、抱いたことの無い生まれて初めての感情だった。
私は急いでスマホを手に取り、佐久間に電話を掛けた。今となっては犯罪者の可能性が高いので、電話口から出てこない場合もある。
しかしながら、私の思いに反して佐久間への電話は直ぐに繋がった。
「よっすー久しぶり」
間の抜けた挨拶が、私の耳に届く。
「佐久間か、今何してる?」
私は慎重に言葉を選ぶ。
「何って......ゲームしてるよ。そうだ、暇ならお前も一緒にやろうぜ」
剽軽な声で、佐久間は言う。その声に、私の緊張の糸がプツリと切れてしまった。
「あ、あぁ......ちょっと待って」
最初のコメントを投稿しよう!