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私はゲームのスイッチを付けると、確かに佐久間のアカウントはオンライン状態になっていた。
もし佐久間が犯人であれば、私の妻は佐久間の部屋の何処かに居るはずである。
「なぁ、佐久間。テレビ通話しようよ」
私は佐久間を揺さぶろうとしたが、佐久間は尻込みせずに「良いよ」と返事した。
私のスマホの画面に、佐久間と部屋の中が映し出される。佐久間の表情も部屋の雰囲気も、事件の真っ只中という様子ではなかった。
「そのまま部屋の中をぐるっと映してみて」
私がそう言うと、佐久間は一周スマホを回してから「お前、何かあったんか?」と怪訝そうに訊ねてきた。
部屋の中には、不審なものは何一つ無かった。佐久間はどうも犯人では無さそうだ。私はどうしようもなくなったので、観念して佐久間に相談することにした。
事件について一通り話すと、佐久間は暫く考え込んでから「そういえば」と言葉を紡いだ。
「お前の奥さん、結婚式したいとか何かで、ちょくちょく俺に相談してきたなぁ」
「そうなのか......?」
「あぁ。お前が頑なに結婚式を開かないから、奥さんめちゃめちゃ苛々してて」
私は意外な事実に言葉を失いそうになった。そういえば、付き合いたての頃は"貴方とウエディングケーキを切ってみたい"と言ってた気がする。
「価値観は合わないけど、でも何故か一緒に居て安心するから、苛々はしても別れたくはないわって惚気られてね、困ったよ」
佐久間は苦笑いしながらそう言った。
そこだけは、ばっちり価値観が合うなぁと、私は思った。物事の好き嫌いが合わなくても、側に居て安心だと思えれば、それは夫婦として相応しい一つの形なのだろう。
「すまんな、あまり有力な情報が無くて」
佐久間は哀しげな表情で謝った。
「いや、佐久間のお陰で分かったよ」
「私が結婚した理由と、誘拐事件の真相が」
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