私の妻が居なくなりました。

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私の妻が居なくなりました。

 準備する。  準備しない。  準備する。  準備しない。  準備する。  準備しない。  準備する。  褄取草(つまとりそう)の花は、花弁が七つある。その上、()の花には花弁の総数の個体差はなく、そもそもが合弁花なので、花占いとかいう眉唾物(まゆつばもの)の占術には不向きとされている。  では何故、私が褄取草の花で花占いをしているのかと言うと、理由は単純明快で、私の庭先に咲いていた花が丁度褄取草であったからである。  「やっぱり、準備するかぁ......」  私は小さく呟きながら、茎と(がく)だけが残った褄取草の残骸を、青いバケツに放り込んだ。これでぴったり二十八本目になる。  花びらと茎を別々に別ける作業は意外と骨が折れるなぁと、私はそう思いながら、記念すべき二十九本目の頭花(とうか)を探し始めた。けれども、とうに庭先ではその姿は見つけられなかった。  「あれ......全部抜いてしまった」  私の心に、後悔の念が渦巻(うずま)かれた。妻が大切に育て上げた褄取草が、ものの一瞬で無くなってしまったのだ。  でもどうして、二十九本目が見つからないのだろうか。私は不思議でたまらなかった。  今の妻の有り様と、よく重なっている。  「妻は何処(どこ)に行ってしまったんだ......」  今日は妻の二十九歳の誕生日であった。しかし今朝起きた時には既に、隣に寝ていた(はず)の妻の姿は無く、枕の上に置き手紙だけが残されていた。  ============================  妻を預かった。  返して欲しくば百二十万準備しろ。  振込先は ***-**** だ。  警察には通報するな。  守らなければ、妻の命はない。  ============================
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