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「VIPか」 (現実の展開によっては今回の幻ハンターもどういう話になっていくかわからないな)  自然にフッという笑みが出てしまう井ノ原である。 「このエレベーターはVIPルーム直通になります。通行証明書の提示もしくは滞在者の許可が必要になります」  VIPルーム専用エレベーター前。赤鬼のような二人の警備員が立ちふさがった。  エリカが体を堅くし「1001号室のミリガン・パウアイさんを呼び出していただけませんか」と警備員に言う。この警備員、中肉中背の地球人、井ノ原哀理など平手打ちひとつで天国に誘うことができる体躯をしている。 「あなたの名前は」 「マリア・ティールームのエリカ・シューと申します。こちらは作家の井ノ原哀理先生です」  某惑星の国王だの、大統領だの、星ひとつ買えるほどの財産をもった大富豪や宗教家などが集合しているVIPルーム。厳重な警備体制がひかれているに決まっているわけで、エレベーターの前ひとつにしても天井や床に監視カメラは当然のこと、侵入者阻止の為、あやしい光線が発射されるよう設計されているだろうし、乗客を装って行き来している人物にも私服警官が混じっているだろう。  エリカと警備員の事務的なやりとりを傍目にしながら井ノ原はぼんやりと作品のアイデアが浮かぶのを感じている。 (VIPか。お付きの者に監視され、船旅も堅苦しさに満ちている。いや、船旅ではなく重要な交渉のためにとある星に向かっているのだ。となると当然命を狙われるわけで、影武者を…。本物は幻ハンター暁金之助と偶然にも同室になった男。年寄りか思春期の少年がいいだろう。アクティブな老人のほうがキャラとしておもしろそうか。謎の女は隠密で彼を陰ながら守っている。カジノで金之助と謎の女を襲った奴らのバックには老人を狙っている某惑星の大物)  黒革靴のつま先を眺めつつ井ノ原は想像の甘さに溜息をついた。老人が堅苦しい生活から逃れるために庶民がチェックインする3等、4等室を選ぶのは金持ちの道楽のようで印象がよくない。この老人はストーリーの核にしたいとさえ思いはじめている。ならば、老人がVIPルームに影武者をおいてまで自分が身分を偽り自由に行動するのには深い理由が必要だ。ページが進むにつれ老人の歩んできた道とこれから隠密にやらねばならぬことがハッキリしてきて。それが幻の宝である「茶」に結びつき、暁金之助を巻き込んでいく。  となると。 「真の目的はなんだ」  その場にいた者の視線が一斉に井ノ原に集中した。  何故かエレベーターに乗る前に身分証明カードの提示だけでなく指紋照合まで求められてしまった。大男の手が井ノ原の手からカードをもぎ取りカードリーダーに通す。前科がないことと、宇宙的に有名な作家という身分がハッキリしたので通行許可はおりたが、どうも納得ができない。 「井ノ原先生。どうかしましたか」  エリカが病人を見舞うような目をむけている。 「べつになにも」  こういうときには微笑むに限る。  赤絨毯にシャンデリア付きの4畳はあるエレベーターは1階ぶんしか上がらない。それでも階段は非常事態時以外閉鎖なので1等室の真上にあるVIPルームに行くには警備厳重なエレベーターに乗らねばならないのである。  5秒もすれば扉は開く。開いたとたんさっき下で会ったのと同じ格好の警備員が待ちかまえている。 「1001号室にお越しのエリカ・シュー様、井ノ原哀理様。お部屋までご案内致します」  部屋案内をする警備員は下の男と違って大柄ではない。というか、細身のような気もする。VIP警備ができるのだろうか。 (そういえば金之助の相棒である半獣人、銀狼の出番を忘れていたな。VIP警護のアルバイトをしているというのはどうだろう。老人の影武者の警護だ。そうするとふたつの話を平行に進めることができる) 「フッ」  影武者にも背景が必要だと井ノ原が思ったとき、警備員に言われるままエリカが1001号室の呼び鈴を押していた。 『はい』  落ち着きのある女性の声がインターホンから帰ってくる。 「ミリガンさん。エリカです」 『今開けますわ』  自動ドアが真横に開いた。 『お入りになってください』  インターホンの声の主が廊下のふたりを招き入れる。  ここで警備員は一礼して元のエレベーターホールへ戻っていった。  スキップしたら天井に頭が着いてしまいそうなクッション性の高い赤い絨毯の廊下ともお別れか、と思いきや部屋の中は足が埋まるほどの絨毯だった。  一般人が入ることは許されない魅惑のVIPルーム。なかに入るといきなり廊下が5メートルほどあるが、その先の、リビングに通じる片開き戸も開いたままになっているのでそちらに行けばいいのだなということがわかる。 「お待ちしていました。ミスター・井ノ原」  そして頭をさげるダークブルースーツの女性。背の高さとスリーサイズからしてモデルをしていたと言われても素直に納得してしまいそうなナイスバディ。長い金髪を1本もほつれさせることなくまとめあげ。楕円形の眼鏡をひっかける筋の通った鼻。赤い唇が誘いをかけているようで。 「護衛官のミリガン・パウアイです」  握手を求める細く長い指。微笑みひとつ無駄はない。成熟した女性の姿がここにあった。  井ノ原は軽く右手を挙げ、よろしくと微笑み返しのうえ握手に応じる。正に絵になる男女の図。  秘書と言われて素直に思い浮かぶ女性の登場に、同じような格好をしているにも関わらず職業に無理があるエリカ。  30畳はあろうかという舞踏会でもはじまりそうなシャンデリア付きのリビングを口を半開きにして見回す様は余計幼く見えてしまうところだ。 「あ、あの」  そのエリカがなにか言いかけたとき、大きな影が覆い被さってきた。  シャンデリアの光がまぶしいくらいであるはずが、一転雨雲がたちこめてきたかのようだ。 「護衛官のギイル・オニールです」  しかも、その雨雲は雷音のような言葉を発した。真後ろに立たれたエリカは岩山が黒スーツを着て立っている姿に「きゃあっ!」と尻もちをついてしまった。 「エリカさん、大丈夫」  右手を差し出すミリガン。エリカはその手をとり立たせてもらう。 「すまない」  とだけ告げる護衛官。井ノ原などデコピンされただけで脳が真っ二つに割られそうな男だ。格闘家や警官、警備員の職につくものが多いとうたわれているウーメ星人だ。登山家が頂上を目指したくなるような大きな体。スキンヘッドに角のような突起が数本出ているのが特徴である。 「い、いえ、こちらこそ、みっともない声をあげてしまって」  エリカの足は生まれたての子鹿のようにガクガクである。 「ミリガン、アイスミントティーある?」  3人目の声が参加してきた。やましいことなど観たことも聞いたこともない少年合唱団のごとき澄んだ声。  全員がその声に反応した。いや、催眠術にかけられたかのように反応させられたといってもいい。  方向を見失った洞窟でみつけた外への道しるべを発見した喜び。なぜそんな感情が今湧くのか。  光が差し込む方向に真っ白いガウンを着た真っ白い物体が真っ白いタオルを頭に巻いて立ちつくしていた。 「あ、お客様がいたんだ」  言葉を失ってしまった井ノ原の心の事情など理解できない様子のシャワーあがりの少年。紫色の瞳で井ノ原の顔をみるなり事態に気付いたようで。 「井ノ原哀理先生?」  ようやく声が耳に届いて井ノ原は人形のように頷いた。 「どうしよう、ごめんなさい、こんな格好で」  白い少年はあこがれの人の前で慌てふためく素人さんノリである。 「え、ああ」  ようやく井ノ原の頭のなかでピンボケだった画像がはっきりしてきた。ファンはわけへだけなく接するをモットーにしているので「こんにちわ」と軽く右手をあげてこたえてみたが上手く言えたかわからない。 「大ファンなんです」  ガウンのすそからのぞいている毛筆のような白い尾が左右に振られている。頭に巻いたタオルから出ている真横に長くのびた耳も垂れ下がり気味になっている。井ノ原は飼い犬のゴールデンレトリーバーが喜んでいるときのことを想った。 「カウ様、お着替えください」  ミリガンが溜息混じりに少年の興奮にさまし水をかけた。 「すぐ着替えるから、待ってて」  少年は小走りに隣の部屋に向かうが、なんにもないところでつんのめって倒れそうになっている。  井ノ原とエリカが目を見張ったのは瞬間移動でもしたかのようにミリガンとギイルが両脇から支えに入っていることである。 「カウ様、足下に気をつけてください」  声をかけるのはミリガン。ギイルは無言である。  ありがとうとふたりに照れ笑いをみせるカウという有尾族の少年。拍子に頭のタオルが絨毯に落ち、腰まで届く白い髪があらわになる。 「きれい」  と簡単な単語を口に出したのはエリカであったが井ノ原はどう表現したら読者に伝えることができるのだろうかと自分の表現力の限界にたたされていた。 「大変失礼致しました」  カウとギイルが隣の部屋に移ったあと、ソファーに井ノ原とエリカを座らせてミリガンはローテーブルに置かれたティーセットで手際よくミントティーを作り始めた。 「ミントティーでいいですか」  並んで座る井ノ原とエリカは同時にゆっくりうなずいた。 「彼はヒトスキ星の神ですよね」  テレビや雑誌では観たことがあるが実物ははじめてだ。  茶葉生産量宇宙一で有名な惑星ヒトスキ。ヒトスキ星人は地球人と比較するとひとまわり小柄で耳は小さく尾も短めでふさふさではないし、肌の色はミルクティー色で髪は硬質で漆黒だ。そんな惑星ヒトスキで希に産まれるヒトスキ星人とは思えない突然変異が神としてあがめられる。総理大臣より偉いといわれている。 「びっくりしました」 「初めてカウ様に会われる方はみなさんそうおっしゃいますわ」  井ノ原のつたない表現に笑顔で返すミリガンである。こういう一般人応対には慣れているのだ。 「カウ様はどうしても故郷を自分の目で見たいとおっしゃるのです」  一瞬聞き流しそうになってしまったが、茶を入れながらも本題に入っていたようだ。 「故郷というと?」 「キルネ島です」  ミリガンは電子ポットのお湯をティーポットに注ぐ。 「彼はキルネ出身なのですか?」 「はい。れっきとしたヒトスキ星のキルネ人です」  小柄なヒトスキ星人を地球人サイズにして耳を真横にのばし、尻尾をふさふさにすれば、キルネ人のできあがりとミリガンは言う。ただし肌と毛色は一般のヒトスキ人と変わりはない。ミルクティー色に漆黒だ。 「悪魔と神は表裏一体といわれています。悪魔の化身と言われ、迫害を受けているキルネ人からしか神の化身は生まれないのです」 「それは知らなかった」  キルネ人とヒトスキ人の違いは体が大きく、耳と尾が長いというだけと聞いている。キルネ人の方が圧倒的に人口が少ないというだけで迫害の歴史が始まったとも。 「ヒトスキ星の言葉で神はキャラと呼ばれているのですが、そのキャラ様はだいたい80〜100年に一人という確率でキルネ人から生まれるのです。なにかしらの超能力をもっていて大昔から様々な奇跡を起こし、ヒトスキ星人の苦境を救ったという伝説が記されています」 (存在だけで心拍数があがってしまうというのにそのうえ超能力か、すごいな神様は)  心のアタマを抱える井ノ原。どうりで宇宙歴史学教師の兄があわてふためくはずだと思う。そんな神様と旅行だなんておそれ多いことである。 「ただ体が弱いので大きな奇跡を起こされたらお命に関わりますから無駄に能力を使わないように私たちが監視しているのです」  観察したところ、地球のアメリカ人の血が混じっているように思われる猫目のミリガンはミントティーをカップについで井ノ原とエリカに差し出した。 「どうぞ」  どうも、とカップに手を伸ばす井ノ原とエリカ。ミリガンはグラスに氷を詰め込んで残ったミントティーをアイスにした。 「あのっ」  即座にエリカが口を開く。ミリガンは「なにか」という瞳を向けている。 「それは、カウ様のアイスミントティーですよね」 「そうです」 「いいんですか」 「え?」 「そのっ、あの、神様の飲むお茶、私たちとおんなじで」  しかもこっちが先に注がれてしまった。 「同じポットで飲みたいというのはカウ様の意志なんです」 「特別扱いされたくないんだ」  着替えを終えたカウがギイルとともに立っていた。 「お待たせしました」  アイドル級の笑顔を見せるカウは紺地のTシャツに白のパンツ姿、普段着以外のなにものでもない。  だというのに普通の少年とは違うものを明らかに放っている。そのなにかをどう表現したらいいのかを井ノ原は悩んでいるのだが、あまりにもわかりやすい言葉で説明するなら『いやでも瞳を奪われてしまう』『見るつもりはなくても見えてしまう』『彼を見そこねたら一生不幸にさらされる』『側にいてくれないと不安が襲う』といったところだが、この場においてそのような当たり前の言葉しか浮かんでこない情けなさに作家が天職ではなかったんじゃないかと泣けてくる。  目の前のカウは「シャワー浴びちゃったから正装はしたくないんだよね」と呟きながら、ミリガンの隣に腰を下ろした。光のぼかしを入れてスローモーション映像でお楽しみいただいているような錯覚を覚える。 「あらためてはじめまして。カウといいます。スクウォー全宇宙学園中等部に通う14歳です」  カウが動くたび絹糸のような髪が無重力状態のように揺れる。アメジストの輝きをもった瞳が常にこちらを見つめている。少女のような小顔と薄い紫色の唇。華奢な体。電気を消したら発光するんじゃないだろうか。 「はじめまして。井ノ原です」  井ノ原ごときのスマイルなど無意味な産物と化す。  中身がごく普通の少年だとしても外見のインパクトの前では「14歳の中学生」という台詞にはまったく説得力がみあたらない。特別扱いされたくないと本人が言っても周囲が放っておかないのは当然のことだろう。神様になるのは当然の流れ、これは歩く宝石だ。  井ノ原は出されたお茶がスッキリするミントティーでよかったと心底思う。彼の姿を正視しただけで意識がお花畑に飛んで行きそうだ。 (くどいようだが実物がここまで綺麗だったとは)  井ノ原の記憶によると、彼の母親も神様で恐ろしく知能指数が高く、ヒトスキ政府の反対を押し切ってスクウォーで勉強をははじめたのだ。その母親がヒトスキ星ではなくスクウォーで彼を出産したときヒトスキ史上初の2世誕生と全宇宙が大騒ぎした。  くらいはニュースで知ってはいたが。 (こんなことなら母親の実物を見ておくべきだった…)  よこしまな井ノ原である。 「握手してください」 「えっ」  ファンなら口にだしてもおかしくない台詞なのに『私なんかの手でいいんですか』と血圧が急上昇してしまう。 「え、ええ、いいですよ」  白魚のような手とはいつの時代の誰が言い出したのか。握手される方が堅くなってどうすると井ノ原はつとめて平静を装うと必死に微笑んだ。 (長い指だな)  細くて白い手は堅くもなく柔らかくもなく、冷たくもなく暖かくもない。いや、違うと井ノ原は思う。手に感覚はないががあったかくなっている。手っ取り早く言うとこたつでみかんだ。  握手を交わしたとたんカウは真顔で言った。 「耳の大きなボサボサ頭の女の人が怒ってますよ」  井ノ原の心地よい妄想は瞬時に凍りついた。 「え?」  カウが言う人物は100%担当編集のヒイラギであり、怒らす原因に思い当たる節が明らかにあった。 「カウ様、人様の予知をするなんて。失礼なことと何度言ったらわかるのです」  ミリガンは教育係らしい表情を初めて見せた。カウは臆病な犬のように長い耳が垂れ下がってしまう。 「ごめんなさい。でも、すごく鮮明だったから」  実は出発前に渡したミルキーウェイの原稿が間に合わなくて数枚足りない状態で【つづく】と書いてだしていたのである。 「いや、いいんです」  心構えができたからよしとする。そんなことよりカウと握手したということだけで井ノ原は心の洗濯をしてしまった。なにが起きてもプラス思考になれそうだ。 「ぼくはハリヤさんと一緒だから同行を許されたと思うんです」  カウはアイスミントティーをストローでひとくち飲んでから語り出した。 「いくらヒトスキ政府に頼んでもキルネ入島を許してもらえなかったんです。ヒトスキ星には何度も行くのですが、故郷に行けないんです。親戚だっているかもしれないのに」  声が震え早口になっている。隣に座るミリガンはうつむいたままで、後ろに立つギイルは動かざること山のごとしだ。 「生まれてから一度も行ったことないのかい」  カウは大きく頷いたかと思ったら首を横に振った。髪がタンポポの種みたいに舞う。 「生まれも育ちもスクウォーだからキルネ知らずなんです」 「そうか」  井ノ原はティーカップを手に取った。だんまりのエリカも緊張を癒すためにミントティーを数口含んでいる。  カウもグラスを手にとってストローで氷をかき回し。ギイルは動かず。その間、ミリガンが言葉を整理する。 「このたび、ハリヤ氏の口添えでようやく許されたのです」 「だけど、一応お忍び旅です。キルネに向かうのは国民には内緒です」 「そうなの?」 「はい。えっと。ぼくハリヤ・マリア氏の姪と同じクラスなんです」 「グレス様と」  とやっと声が出たエリカ。どうやら彼女もカウを前にして自分の言葉を見失っていたようだ。 「知っているんですか、グレスのこと」 「ええ、かわいくて威勢のいいお嬢さんですよね」  エリカは社長の姪というグレスのことを想って微笑になった。いい子なんだという気持ちが井ノ原にも伝わる。 「そのグレスがハリヤ氏を紹介してくれたんです。キルネと交流のある人物だって」 『全宇宙の紅茶王であるハリヤ叔父さんが大学の講演会で来ることがわかったわ。あたしに任せて、絶対叔父さんを説き伏せてカウを故郷に送り届けてみせるから!』  エリカは口に手をあててちょっぴり吹き出した。彼女ならやりそうだというところだろう。 「グレスのおかげでぼくはハリヤ氏と知り合うことができて、キルネに信頼されているハリヤ氏と一緒ならなんとかなりそうな予知がしたんです」  予感でなく予知ときたが素直に納得出来てしまう。カウの目力に嘘偽りはない。 「ハリヤ氏が倒れたと聞いて予知がはずれたかと思ったんです。でもぼくは諦められない。行かなくてはならない運命にあると信じています」  この旅は、小説より奇になりそうだと井ノ原は思った。  井ノ原が部屋に戻るとパソコンがメッセージを2件預かっていると言っていた。最初の1件は案の定天の川書房編集部のヒイラギ・マイマイで唇を富士山のかたちにつり上げた顔がアップになっていた。  とにかく一刻も早く続きを書いてくれなきゃ困るんです! と叫ぶヒイラギに「了解。5日以内には送信します」と返信。  2件目は天の川書房の若社長サニーからで、用件はやはり原稿が途中で終わっていることへのクレームだった。いくら友達でも締め切りは守ってくれないと困るんだよね。仕事なんだからさ、と自慢の巻き毛に指を絡ませながら必要以上に甘ったるい微笑みを浮かべていた。女性ならあまりのまばゆさにクラクラと倒れるところだろうが締め切りを守れなかった作家にむかってやられると両手をついて謝れという脅迫概念にとらわれてしまう。  これにもヒイラギと同じ文面を返信した。
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