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「なんか寒くない?」か細い女性の声。
「そう?冷房が効いているからかな?」
「ううん、違うの、そういう寒さじゃない」
「また、例のあれ?」
自分の直ぐ真横に立っているカップルの会話が耳に入る。そちらに目をやる。カップルのうち、女の子が不安そうな顔をしている。
「うん、なんか、凄く気配がする」
「・・・いるんだ、この中に」
「いるいる、絶対いる!」
何の事だろう。別に盗み聞きしている訳ではないが、カップルの声が大きいのでついつい聞き入ってしまう。いるとは何の事だ。何がいるんだ。続きが聞きたくなったが、そこで異変に気付いた。視界の隅に変化があった。目線をそちらに向ける。思わず声が出そうになった。ついさっき自分を睨んでいた白いブラウスの女がいなくなっていた。彼女の存在に気づいてからまだ駅には停ってない。つまりこれだけ混雑している中を移動した事になる。どこだ。どこに移動した。普通に考えれば、そこまで気にする事じゃないかもしれない。しかし、第六感が彼女を警戒すべきと自分に訴えていた。女の姿を確認しないと危険だと思った。不審に思われるのも構わずに周囲を見回す。急に鳥肌が立った。彼女は真後ろに立っていたのだ。相変わらず僕をじっと見つめている。怖くなって、僕は位置を変えた。十代のカップルの男の方についぶつかりそうになった。
「うわうわうわ、近くなった近くなった!」
女の子が素っ頓狂な声を上げた。
「そ、そんなに?近いの?」
「やばい!やばい!降りよう!やばい!いるよ!」
ようやく次の停車駅に到着した。カップルはそこで降りた。僕も降りた。
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