誰かに見られてる

1/7
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

誰かに見られてる

梅雨が抜けきれていないと言われていた7月が嘘の様に今日は晴れていた。平均気温は34度。少し歩いただけで汗まみれになる。出来れば外に出たくなかった。テレビは熱中症の対策をくどく訴えている。にも関わらず、暑さに倒れる人が続出するのは何故だろうか。そんな事を考えながら電車に乗った。どうしても済ませたい用事があったのだ。いつになく乗客の数が多い。8月の真っ只中だけあって、学生だけでなく、社会人も夏休みなのだろうか。ただでさえ殺人的な日差しに苦しんでいるのに、人、人、人だらけ!冷房が効いているとはいえ、これは堪える。けど我慢だ。ほんの数十分の辛抱。そう思いながら、降車駅に着くのを待った。暫くして視線を感じた。自分をじっと観ている感覚があった。自意識過剰か、と思って目を瞑った。しかし気配は消えない。寧ろ、どんどん強くなっている。誰だ。自分をずっと見ているのは。さりげなく、ごくさりげなく周囲に目をやる。真っ白なブラウスを着た女性が目に留まった。女性の視線が明らかにこちらを向いている。間違いない。視線の主は彼女だ。見たところ二十代後半くらいか。随分、険しい顔を向けてくれるじゃないか。何か彼女が不快に思う様な事をしたっけ。顔か。体臭か。考えれば考えるほど、よく分からない。親から授かった顔はお世辞にもハンサムとは言い難いが、そこまで不快感を覚えるものだろうか。まあ、自分の顔は自分ではなかなか客観的には見れないものだ。こればっかりはどうしようもない。無視する事にしよう。彼女から顔を逸らした。早く着いてくれる事を願いながら。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!