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年が明け、1月5日に総本家の飯塚組長の家に、ジュリと大河は伊丹とやってきた。
ジュリは大事そうに、大河からのクリスマスプレゼントのクマのぬいぐるみを抱えて持ってきている。
「ほうほう、お前が伊丹のとこの嬢ちゃんか」
初老の飯塚組長は温厚そうに笑うが、隙がなくその目は威厳を持っていた。
とても太刀打ちできる相手ではないと大河は震えた。
「あけましておめでとうございます。ジュリです」
伊丹に教え込まれた事を、ジュリはちゃんと言いつけを守り挨拶をした。
「あけましておめでとうございます。お初にお目にかかります。夏井大河と申します」
大河は挨拶をして深々と頭を下げた。
「大河は優秀らしいな。賢そうな顔をしておる」
「恐れ入ります」
飯塚組長には何でも見透かされているようで怖かった。
自分の伊丹への想いもバレていそうだと思ってしまった。
「足、しびれちゃうよ」
ジュリが伊丹に呟く。
慣れない正座が辛かった。
「良い良い、楽にせい。どうせお前達しかおりゃあせん」
飯塚組長がそう言うとジュリはあぐらをかく。
大河はそれを横目で見ながら、子供の無邪気さか、ジュリの誰にも媚びない天性のものかわからなかったが、その大物ぶりについ微笑んでしまった。
「堅っ苦しいのは儂も苦手だ。酒でも飲みながらゆっくりするかね」
隣の座敷に料理が用意されていて、ジュリはそこでも物怖じせず好きなものを食べまくる。
大河は緊張しながら酒と料理に軽く手をつけた。
ジュリは食べて満足すると庭に出て走り回る。大河も外に出てジュリを見守る。
部屋に残った飯塚組長と伊丹はサシで飲み始めた。
「今年も真幸は顔も出しやがらねぇ。全く、自分の立場を分かっちゃいねぇ」
飯塚組長は孫の真幸の愚痴をこぼす。
「そのうち、うちの組で真幸の面倒は見ますから。今は好きにさせておいた方がよろしいかと」
伊丹は笑いながら言う。
「いつまでもフラフラして、五島も真幸を甘やかしおって。大学を出してやっても好き勝手するところは、出来損ないの倅そっくりだ」
真幸は大学を出た後、五島組長の秘書としてそばにいた。もちろん、飯塚組長の孫だとは、五島と伊丹しか知らない。
「真幸なら組長の思いがいつかきちんと分かりますよ。あいつは組を背負っていける器がありますから」
楽しそうに伊丹は言う。
雪見障子から見えるジュリを見て飯塚組長は目を細めて微笑む。
「あの嬢ちゃんをどうやって躾けて行くつもりだ?」
「あいつが望むように大人にするつもりです。こっちの世界に来るのか、カタギとしての生活を望むのか」
伊丹の答えに飯塚組長は笑う。
「嬢ちゃんは、良い目をしていた。あいつはヒットマンむきだねぇ」
まるで将来を予想するように飯塚組長は言う。
「もう1人の若造はどうするつもりだ?」
大河のことを尋ねられ伊丹は大河を見る。
「あいつも、あいつが望むように生きさせるだけです。そのうち、俺やジュリの前から消えるんでしょうかね」
伊丹の言葉に飯塚組長は笑う。
「なんて顔しとんだ。子供の巣立ちを親は喜んでやるもんだぞ」
飯塚組長の言葉に伊丹は苦笑した。
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