桜の下で

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桜吹雪が舞い散る中で、大河は空を見つめていた。 ジュリは大河の背中に寄りかかりやっぱり空を見ている。 「大河。僕ね、大きくなったら、大河のお嫁さんになってあげてもいーよ」 ジュリのプロポーズに大河はジュリに顔を向ける。 「どうしたの?突然」 クスリと笑って大河は尋ねる。 「大河は優しいし、イケメンだし、僕をいつも守ってくれてるし」 ジュリの言葉に大河は微笑ましい気持ちになった。 「気持ちは嬉しいけど、ジュリが大きくなる頃には、もう俺はおっさんだよ。まぁ、今もおっさんだろうけど」 自虐的に大河は言うとジュリが大河の手を握る。 「僕、大きくなったら、絶対美人になるよ。若い美人の奥さんて羨ましがられるよ」 ニコッと天使の笑顔でジュリは笑う。 「俺がジュリと将来結婚したら会長に殺されるかも。俺の大事なジュリは渡さん!って」 ジュリの頬に掌を当て、優しい目で大河は言う。 「だね。伊丹は僕が大事だから」 ジュリも伊丹がどれほどジュリを、自分の子供と思っているか分かっている。 「ねぇ、僕が大人になって、その時大河も僕のこと好きだったら、今度は大河が僕にプロポーズして」 澄んだ瞳でジュリは言う。大河はジュリの柔らかな頬を親指で撫でて頷く。 「分かったよ。ジュリが大人になった時考えるよ」 大河の言葉にジュリは嬉しそうに笑うと、頬に当てられた大きな掌にジュリは手を重ねる。 「早く大人になりたい」 ジュリは目を瞑って大河の掌の温もりを感じる。 桜吹雪はさらに風に煽られ、2人の上にシャワーのように花びらが舞い落ちてきた。 これはジュリの初恋なのだろうか。 それとも憧れなのだろうか。 小さなジュリがどんどん成長していくに従い、この淡い想いが穢れないようにと大河は祈るばかりだった。 桜を愛でた散歩から戻ると、伊丹が何やらあったのか険しい顔で携帯で通話をしていた。 「分かった。そのまま逃すな。絶対逃すなよ」 伊丹はそう指示すると電話を切った。 「ただいまー」 何も気にすることなくジュリは言う。 「ただ今戻りました」 続いて大河も声を掛けた。 「おう。ジュリ、勝子からおやつでも貰ってきな。大河、ちょっと事務所に行くぞ」 ジュリは洗面所で手を洗うと、おやつを食べるために勝子の元に行った。 伊丹と大河は車に乗ると、大河の運転で事務所に向かう。 「何かあったんですか?」 伊丹が苛立っているのが気になった。 尋常ではない。 「事務所で話す」 伊丹は口を閉じ窓に顔を向け、大河ももう何も聞かなかった。 事務所に着くと、伊丹は走るように事務所の中に入った。 大河は、動けないように縄で縛られた男の姿を見て、一体この男がなぜ伊丹の逆鱗に触れたのか分からなかった。 もう伊丹の舎弟や子分達からリンチを受けていたのか、男の顔面はボコボコになっている。 部屋の中にはその男と、1番信頼されている若頭だけがいた。 「おう、やっと見つけたぜ。なんで捕まったのか分からねぇって顔してるな」 伊丹は男の薄い髪を握り引っ張ると顔を向けさせた。 「お前がやったこと、こっちは全て知ってんだよ。テメェが実の息子にした事をな」 伊丹のその言葉で、大河は全て飲み込めた。 それが分かると一気に鳥肌が立った。 今、目の前にいる男が、ジュリの実の父親だと分かった。
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