桜の下で

4/6
前へ
/32ページ
次へ
「良い子で待ってたかい?」 思っていたより伊丹と大河が早く帰ってきたので、ジュリは嬉しくて伊丹に抱きついた。 伊丹からは、さっきまでの怒りの形相は消え、穏やかな顔をしている。 「これ、ジュリが好きなアップルパイ。お土産に買ってきたよ」 大河がアップルパイの箱を手渡すとジュリは大喜びする。 さっきの出来事を思い出し、ジュリはこの家に来て本当に良かったと大河は思った。 夕食を食べてジュリが風呂から上がると、大河はいつものように本の読み聞かせをする。流石にもう絵本ではなく児童文学の冒険物だった。 「ねぇ、大河。伊丹、大丈夫?昼間凄く機嫌悪かったし、さっきはとても疲れて見えた」 ジュリは伊丹を良く見ている。大河は本を閉じジュリを見つめる。 「大丈夫だよ。仕事が大変だっただけ。ジュリは気にしなくて大丈夫」 優しく微笑む大河の手をジュリは握る。 「大河。好き。僕、大河が好きだよ。だから……」 ジュリは潤んだ目で大河を見つめる。 「ん?どうしたの?」 大河がジュリに微笑むと、ジュリは大河の首に腕を回して抱きついた。 「良い子になる。もっと良い子になる。だから、大河も伊丹も、ずっと僕のそばにいるよね?僕はこの家にいて良いよね?」 なにかを感じ取っているんだと大河は思った。 感受性が豊か過ぎるのだろう。 「良いんだよ。この家は会長とジュリの家だよ。俺もずっとそばにいるよ!」 大河はそう言うと、ジュリのおでこにキスをした。 ジュリは少しびっくりして大河を見つめた。 「落ち着くおまじない。ダメだったかな?」 少し照れて大河は言う。 ジュリはフルフルと首を振る。 「ダメ、じゃない。でも、大河のバカ!」 急に恥ずかしくなったのか、ジュリは掛け布団に潜った。 「少しずつ大人になるんだよ。急いで大人にならないで」  優しく布団をポンポンしながら大河は言う。 ジュリはモゾモゾと目を布団から出して大河を見つめる。 「でも早く大人にならないと、大河おじいちゃんになっちゃう」 ジュリの言葉に大河は笑う。 「全く。おませさん」 優しい大河の声にジュリは落ち着く。ずっと大河の声を聞いていたい。 「ねぇ。次は、いつ、キスしてくれる?」 可愛いジュリの言葉に大河はジュリを見つめる。 「んー。教えない」 「ずるーい」 ジュリは拗ねる。 「会長には今夜のことは2人の秘密だよ。バレたら俺、会長に殺されるー」 大河はわざとふざけて言う。 ケラケラ笑うジュリは、しばらくすると眠くなったのか、スヤスヤ眠り始めた。 大河はホッとすると静かにジュリの部屋を出た。 廊下に伊丹がいて、大河はびっくりして大声をあげそうになり慌てて口をふさぐ。 ジュリが心配で部屋を覗きに来ていた。 「……全く、油断も隙もねぇなぁ。今夜だけ許してやる」 ジュリにキスをしていたことが伊丹にバレて大河は真っ赤になる。 伊丹はフッと笑う。 「まぁ、お前なら、将来ジュリをくれてやっても良いぜ」 伊丹は背を向けそう言うと、自分の部屋に入っていった。 大河は切ない気持ちを隠して、その後ろ姿を見つめた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

296人が本棚に入れています
本棚に追加