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「良い子で待ってたかい?」
思っていたより伊丹と大河が早く帰ってきたので、ジュリは嬉しくて伊丹に抱きついた。
伊丹からは、さっきまでの怒りの形相は消え、穏やかな顔をしている。
「これ、ジュリが好きなアップルパイ。お土産に買ってきたよ」
大河がアップルパイの箱を手渡すとジュリは大喜びする。
さっきの出来事を思い出し、ジュリはこの家に来て本当に良かったと大河は思った。
夕食を食べてジュリが風呂から上がると、大河はいつものように本の読み聞かせをする。流石にもう絵本ではなく児童文学の冒険物だった。
「ねぇ、大河。伊丹、大丈夫?昼間凄く機嫌悪かったし、さっきはとても疲れて見えた」
ジュリは伊丹を良く見ている。大河は本を閉じジュリを見つめる。
「大丈夫だよ。仕事が大変だっただけ。ジュリは気にしなくて大丈夫」
優しく微笑む大河の手をジュリは握る。
「大河。好き。僕、大河が好きだよ。だから……」
ジュリは潤んだ目で大河を見つめる。
「ん?どうしたの?」
大河がジュリに微笑むと、ジュリは大河の首に腕を回して抱きついた。
「良い子になる。もっと良い子になる。だから、大河も伊丹も、ずっと僕のそばにいるよね?僕はこの家にいて良いよね?」
なにかを感じ取っているんだと大河は思った。
感受性が豊か過ぎるのだろう。
「良いんだよ。この家は会長とジュリの家だよ。俺もずっとそばにいるよ!」
大河はそう言うと、ジュリのおでこにキスをした。
ジュリは少しびっくりして大河を見つめた。
「落ち着くおまじない。ダメだったかな?」
少し照れて大河は言う。
ジュリはフルフルと首を振る。
「ダメ、じゃない。でも、大河のバカ!」
急に恥ずかしくなったのか、ジュリは掛け布団に潜った。
「少しずつ大人になるんだよ。急いで大人にならないで」
優しく布団をポンポンしながら大河は言う。
ジュリはモゾモゾと目を布団から出して大河を見つめる。
「でも早く大人にならないと、大河おじいちゃんになっちゃう」
ジュリの言葉に大河は笑う。
「全く。おませさん」
優しい大河の声にジュリは落ち着く。ずっと大河の声を聞いていたい。
「ねぇ。次は、いつ、キスしてくれる?」
可愛いジュリの言葉に大河はジュリを見つめる。
「んー。教えない」
「ずるーい」
ジュリは拗ねる。
「会長には今夜のことは2人の秘密だよ。バレたら俺、会長に殺されるー」
大河はわざとふざけて言う。
ケラケラ笑うジュリは、しばらくすると眠くなったのか、スヤスヤ眠り始めた。
大河はホッとすると静かにジュリの部屋を出た。
廊下に伊丹がいて、大河はびっくりして大声をあげそうになり慌てて口をふさぐ。
ジュリが心配で部屋を覗きに来ていた。
「……全く、油断も隙もねぇなぁ。今夜だけ許してやる」
ジュリにキスをしていたことが伊丹にバレて大河は真っ赤になる。
伊丹はフッと笑う。
「まぁ、お前なら、将来ジュリをくれてやっても良いぜ」
伊丹は背を向けそう言うと、自分の部屋に入っていった。
大河は切ない気持ちを隠して、その後ろ姿を見つめた。
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