異国から愛を込めて

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「タイガ?」 ダニエルの声に、大河はハッとした。 ヒューはじっと大河を見ている。 ヒューは内心、なに人の顔を見つめているんだと、少し不快に感じていた。 「あ、ごめん。お兄さんが、知り合いに似ていて、ちょっと動揺した」 大河はダニエルとヒューに頭を下げて詫びた。 「似てるといっても、雰囲気なんだ。彼は日本人だし」 悲しげな目で大河は言う。 訳ありかな?とダニエルは思った。 ダニエルはヒューと大河それぞれを紹介して、ヒューと大河は握手を交わした。 ダニエルは確か32歳だと聞いていたので、その兄であるヒューは大河とそんなに年が違わないと思ったが、ヒューは落ち着いていて、大人っぽく見えた。 後から34と聞いて、自分より年下なんだと少し驚いた。 「兄さんも着替えてきてよ。夕飯にしよう」 ヒューが自分の部屋に入っていくと、大河はホッと息を吐いた。 大河が買ったワインを飲みながら、買ってきたデリを3人はつまむ。 「日本の研究所ってどんな感じ?」 興味津々でダニエルが聞いてきた。 「都心から離れた郊外にあったんだけど、周りは自然もあって環境は良かったかな。でも内容は、今の方が高度だね。研究内容もお金のかけたも違う」 ワインを飲みながら大河は言う。 「あの、ヒューは仕事、なにしてるの?」 ぎこちない笑顔で大河は尋ねる。 「保険会社で働いている。ダニエルのように頭は良くなかったから、大学を出て今の仕事に就いたんだ」 ヒューは優しい目でダニエルを見る。きっと自慢の弟なんだろうと大河は思った。 初めは伊丹に似ていると思って無口だった大河も、アルコールのせいか楽しい時間を過ごしていた。 「今夜は泊まっていくと良い。酔っているから帰すのが心配だ」 気にかけてヒューが言う。 「大丈夫だよ。タクシーで帰る」 頬を紅潮させて大河は言う。足元はしっかりしているが、ダニエルもヒューも心配だった。 いくら男とはいえ、大河の美しい容姿で夜に1人で歩かせるのが心配だった。 「いいから、遠慮しないで。僕の部屋に泊まる!」 ダニエルは大河の腕を掴むと自分の部屋に大河を入れ、ヒューはビールを飲みながらリビングでテレビを見ていた。 しばらくして、大河がダニエルに借りた着替えを持って部屋から出てきた。 「シャワー借ります」 大河はヒューに声をかけてシャワーを浴びる。 日本の風呂が懐かしいと思いながらシャワーを浴び、鏡に映る自分を見つめる。 伊丹とヒューが重なって切なくなった。 大河はシャワーから出るとリビングに入った。 ダニエルとヒューがビールを飲みながらテレビを見ていた。 「飲むでしょ?」 ダニエルがキッチンに立つと、大河にビールを持ってきてくれた。 「ありがとう」 シャワーで火照った体に冷えたビールを流し込む。喉が潤う。 「僕もシャワー浴びてくるよ。適当に寛いでいて」 ダニエルは、大河とヒューをリビングに残し出て行った。 ヒューと2人になってしまい、正直話題もなく大河は緊張してしまった。 「日本に俺は行ったことがないんだ。ネットで知る情報だけでね。京都は行ってみたいかな」 ヒューが話しかけてくれて、大河はちょっとだけホッとした。 「観光するには良いかも。俺も京都は仕事でしか行ったことがないから、そんなに詳しくはないんだけどね」 大河の答えにヒューは笑う。 笑顔も伊丹に感じが似ている。 ずっと浮かぶのは伊丹のことばかりだった。 「一度は行ってみたいなぁ。でも、なかなかいく機会がない。東京はどんな感じ?先日友人がアキハバラ?に行ってきたんだよ。アニメがどうとか日本のアイドルが好きなやつでね」 「東京は賑やかだよ。夜でも安全だな。比較的綺麗な場所が多い」 大河は懐かしそうに語る。 「日本には、いつか帰るのかい?」 ヒューの質問に大河は首を振る。 「もう、帰れない」 寂しそうに言う大河に、ヒューもそれ以上なにも聞けなかった。
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