異国から愛を込めて

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「タイガ!」 背後から、走って近づくヒューの声に大河は驚いて振り返った。 「具合悪いって聞いて、心配になって」 ハァハァ言いながらヒューは笑顔で言う。大河は胸がズキズキする。 「家に帰るの?」 ヒューが尋ねると大河は頷く。 「大丈夫だから。ヒューも仕事でしょ?俺も着替えたらすぐ仕事行くし」 ヒューは大河のおでこに掌を当てた。 「熱はないね」 ヒューがホッとすると大河は微笑む。 「本当に大丈夫だから。具合も悪くないから」 大河がそう言うと、ヒューは寂しそうな顔をした。 「軽蔑してる?見たんでしょ?夜中、俺がロイにされた事。それでショック受けたんでしょ?気持ち悪いって思ったんでしょ?」 ヒューの言葉に大河は首を振る。 「正直驚いたけど、気持ち悪いなんて思ってない。2人がそう言う関係なら、俺も」 俺もと言いかけて、大河は言葉を飲んだ。 諦めると言いそうだった。 何を?と自問自答。 「また、ダニエルと3人で飲もう」 ヒューの言葉に、大河は首を振った。 「ごめん、もう、部屋には行かない」 大河の言葉にヒューは驚く。やはりショックだったんだと、ヒューはいっときの快楽に抗えなかった自分に後悔した。 「誤解しないで。ヒューとロイの事は関係ないんだ。ただ、ヒューを見てると、日本にいた時に愛していた人を思い出してしまう。俺こそ、ヒューに軽蔑されると思う。俺は、その男性を本気で愛してた。抱かれたいほど」 もう、ヒューと二度と会わないと決めたら、スラスラと本音が口をつく。 ヒューは大河の告白に固まる。 「ヒューを見てると辛いんだ。あの人を思い出して。ヒューがロイにされていたことが、あの人がされていたと錯覚してしまった。ごめん。俺の気持ちなんてヒューに関係ないのに。ヒューに酷いこと言っているよね。俺はそんな最低な人間なんだよ」 大河はヒューにバイバイと手を振る。 「俺に似てるって言う男から逃げてきたの?」 ヒューの言葉が胸に突き刺さる。 「ごめん。さよなら」 大河はヒューに背を向けて歩き出した。 ヒューはその後ろ姿を見送る事しかできない。 大河は部屋に戻り着替えると、直ぐに研究所に向かった。 ダニエルの研究室を覗くと、ダニエルも仕事をしていた。 「体調はどう?ヒューが追いかけたみたいだけど、ヒューと話はできたかい?」 ダニエルが優しく尋ねる。大河は頷くとダニエルの肩に顔を埋めた。 「ごめん。ちょっとホームシックみたい」 大河はダニエルの肩で泣いた。 「悩んでるならなんでも聞くよ。僕たちは友達だ」 心強い言葉に大河は癒された。 大河とダニエルは、研究所の庭の木陰でランチをした。 「日本で本気で愛した人がいる。俺の命の恩人で、今、こうしていられるのも彼のおかげなんだ。でも俺は、彼を愛しすぎて逃げた。研究論文を認められたことを言い訳に、本当は彼から逃げてきた」 ダニエルは大河の切ない恋心を黙って聞いている。 「会いたいと思いながら、もう二度と会わないと決めた。日本にも帰らないと決めた。いつか忘れるだろうって思いながらね」 悲しそうに大河は言う。 「その人って、もしかしてヒューに似てるって人?」 大河は頷く。 「今朝、ヒューにも言った。ヒューを見てると辛いって。ヒューと彼を重ねてる俺は変なのかもしれない」 大河が自分を責めると、ダニエルは大河を見つめる。 「僕がしょっちゅうタイガを部屋に呼ぶのは、ヒューが呼べって言うからなんだ。タイガが1人じゃ可哀想だからって」 ダニエルの言葉に大河はダニエルを見つめる。 「最初にタイガと出会った時、タイガがヒューをその人と似てるって言った時から、ヒューはタイガの寂しさを癒したいと思ったんだと思う。身代わりでも良いから、タイガを孤独にしたくないって。タイガが寂しそうだと、頻りに心配していた」 ヒューがそんな風に自分を思っていてくれて、大河は本心で嬉しかった。 「気持ち落ち着いたら教えて。また3人で飲もうよ」 ダニエルがそっと大河の肩に手を置いた。温かいダニエルの掌に大河は優しい気持ちになった。
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